猫も杓子もあいみょんである。

なんて言ってみたくなるくらいに圧倒的な存在感を示すあいみょん。

流行るものに私はうとい。集団のフィーバー、社会の熱をずっとうしろから見守る私だ。

まったく知らないのもどうかと思って、だいぶ前にあいみょん『マリーゴールド』を一度聴いてみた。その中性的な声に気骨を感じた。


私はandymoriや小山田壮平に影響されている。あるとき、あいみょんも彼らの音楽から影響を受けたひとりだとネットで見た。それで、それまで「ポップ優等生」「期待の巨星」のようなものとしてなんとなく「現実離れ」した存在だったあいみょんが、私にとっても現実味のある存在になった。私は別々の物事どうしが自分の中で結びつくと、ようやく関心を持てるらしい。

https://twitter.com/oyamadasohei/status/1296015793029648385?s=20

そんな頃に、このツイート。

くるり・岸田繁と小山田壮平のミュージシャンシップから目が離せない。ただでさえ私はくるりの大ファン。そこに、私の関心がちょうど高まった「あいみょん」が集った。これは神様…じゃなくてミュージシャンたちからの啓示ではないか。

FM802……関西のラジオか。東京の私にはデンパが入らない。ラジオアプリの有料会員になれば視聴できる。これまでにも、何度も気になるラジオ放送情報をTwitterなどで目にしては「エリア外」のために断念してきた。有料会員になろうか、いよいよ…。

『マリーゴールド』視聴メモ

ちゃんと『マリーゴールド』を聴くことにした。話題になっているもの、流行のチェックの意味合いで前に一度聴いたきりだったから。

サウンドの妙

リバース音からはじまる。これはなんの音? 瞬時に想像したのはメロトロン。メロトロンはポップ・ロックに多用される最強の脇役。長いことこの楽器の正体が分からなかった私はかつて、この音色の再現をリコーダーで試みたことがあった。メロトロンはアナログの「元祖サンプリング楽器」だから、ストリングスでも管楽器でもなんでも、いろんな音色がある。音色が記録されたテープに対応した鍵盤を弾くと、そのテープに収録された楽器の音が鳴る(という楽器)。近年は、デジタル化された楽器(フィジカル)がある。当然、デスクトップの音楽制作ワークステーションにも入れられるだろうから、楽器がなくても打ち込めると思う。

とさんざん書いたが、マリーゴールドで使われているリバース音のような、ふわーっと立ち上がる質感のサウンドの正体がなんなのかわからない。エレクトリックギターのリバースでもこのような、倍音にエッジを感じるのびやかな音がつくれるかもしれないし、キーボードで演奏したなんらかのサンプリング音かもしれない。先に述べたように打ち込みすなわちプログラミングかもしれない。

いずれにせよ『マリーゴールド』のサウンドの幹部はバンドの生音でまとまっている。あいみょんの歌、アコギ以外はすべてサウンドプロデュースの田中ユウスケの演奏のよう(Wikipedia)。プログラミングも彼の手による。メロトロン風の音も打ち込みなのだとしたらそれも彼によるものか。曲中の多くの部分に渡ってバンドの音に乗っかってサウンドの煌びやかなキャラづけを担っている。見習いたい音作り、サウンドセンス。

歌詞の切り方

独特の中性的な声で、歌詞の切り方も引っ掛かりがある。

「き みを」「し あわせだ」「だ いすきさ」「ふ たり」「キス して」

会話でこの切り方をしたら違和感だろう。

『マリーゴールド』の歌詞は非常に音楽的だ。

私のいう「音楽的」についてもう少し説明したい。

何度、「歌詞に着目して聴こう!」としても、はぐらかされてしまうのだ。「ぽーっ」っとして、「音楽」として聴いてしまうのだ。私が散漫でアホなせいか。

この特徴は、大きなヒットのポップソングにしばしばみられる傾向だと思う。

歌詞に、あらゆる人に聴かれる錬磨がなされている。

どんな人が聴いても違和感なく「音楽」として入ってくるのだ。

そこを、私は「歌詞に着目しようとしても、どうしてもはぐらかされてしまう」と感じるのかもしれない。これは誉めている。最大の賛辞。

起結について

オープニングのリバースしたメロトロン風を思わせるようなトーン。曲の結びを印象づけるのもこのトーンだ。オープニングは「逆」再生のような印象、エンディングは気のせいか「順」再生のような印象に聴こえる。ふわーっと立ち上がる音の性格は変わらないから、厳密には順再生というか、音形を反転させたような感じか。このからくりに気付いて、この記事で言いたいことが見つかった気持ちになった。腹にオチた感じがした。

青沼詩郎

『マリーゴールド』 曲の名義などについてのメモ
あいみょんのシングル、アルバム『瞬間的シックスセンス』(2018)に収録。作詞・作曲 あいみょん、編曲 立崎優介、田中ユウスケ。

あいみょん
https://www.aimyong.net/

田中ユウスケ
http://www.ageha.net/archives/ageha_creator/tanaka_yusuke
すごい「多重録音マルチプレーヤー」を知ってしまった。