ポンキッキーズ』を私は観ていませんでしたが、その存在がつたわってくるのが斉藤和義の『歩いて帰ろう』でした。斉藤和義の公式サイトには(フジテレビ系「ポンキッキーズ」メロディ)と記されています。

1994年6月1日にシングルがリリース。作詞・作曲:斉藤和義。以降、『ポンキッキーズ』以外にもCMやテーマソングとして度々使用されているようです(参考にしたWikipedia)。翌1995年2月1日に出したアルバム『WONDERFUL FISH』に収録されています。

アルバム『WONDERFUL FISH』には、アルバムリリース後の1995年3月1日にシングルカットされた『ポストにマヨネーズ』が入っています。すごいタイトルだし、リアルで具体的な歌詞だなと思いましたが、実体験をもとにして書かれた曲のようです。私の想像を絶するような…

アルバム3曲目『歩いて帰ろう』の前、2曲目には『走って行こう』が入っています。『歩いて帰ろう』、タイトルを構成する2語の意味をひっくり返したような、ひねくれた遊びに満ちたネーミング。白と言われれば黒と返し、やめろと言われれば嬉々として盛り上がる、無邪気な自己批判にも思えます。批判といいますか、自分や自作をネタにしてさらなる高みを目指す、向上心のあるチャレンジだと思います。

『走って行こう』の曲調はミドルアッパーで、リズムにフックの利いたストロークが印象的。ちなみにこの曲の特徴的なストロークのアクセントの位置は、『歩いて帰ろう』のエンディングのキメのアクセントの位置に似ています。「タ・・タ・・タ・」と、裏拍に位置した、非3連系のなかに3連を感じさせる定番の移勢です。4拍子・8分音符の割り方だと「タ・」「・タ」「・・」「タ・」という分かれ方になります。自曲をネタ元に、後から書いた曲を先に持ってきた曲順のアルバム。面白い構成です。(あるいは、『走って行こう』の方が先に存在した?! まさかね…?)

『歩いて帰ろう』ですが、軽快な曲調の割には深く激しい歪みの効いたリズムギターのイントロが印象的です。クワーッとオルガンが風を巻き上げるかのように入ってきます。

メロにはⅠ—ⅢMのコード進行。「Ⅰ—ⅢM」がなんなのかや、この進行の用例についてはこちらの記事で扱いましたのでご参照ください。この曲のコードネームでいうと「F—A」の進行です。ググっと近づいて迫ってくる、せり上がってくる、といった印象の進行に思えます。あなたはどう感じますか?

コード「Dm」のところでは2拍単位で変化するクリシェ。コードを構成するある音が半音進行し、ほかの構成音は保たれる場合にクリシェと呼びます(私の定義。間違っているかもしれません)。『歩いて帰ろう』のDmでは、コードの主音の「D」が「レ→ド♯→ド(ナチュラル)→シ」と半音で下がっていき、B♭メージャーのコードにつながります。ここまで含めてみれば「レ→ド♯→ド(ナチュラル)→シ→シ♭」。滑らかで、より拍手を送りたくなる「着地」だと思いませんか? しかも着地先の「シ♭」を含むB♭のコードはこの曲における「サブドミナント(中くらいの不安定感をもたらす響き)」で、この先に安定(トニック)への解決が待っています。

この曲のこの部分のトニックへの解決も2種類あって、それもフックになっています。ひとつめはⅣ(B♭)→Ⅴ(C)→Ⅰ(F)。Ⅴ(C)を経由すると、より「おさまり」が強く感じます。

もうひとつはⅣ(B♭)→準固有Ⅳ(B♭m)→Ⅰ(F)。こちらはⅣ(B♭)のつぎにⅤ(C)に行かないんだ! という意外性があります。遅くなると聞いていたのに予想外なタイミングで帰宅した家族、みたいな感じですかね。「おかえり(なんだ、もう帰ってきたのか)。」と邪険にされる危険も?

青沼詩郎

弾き語りライブ

リズムマシン?のキックビートをお供に。アコギソロがみもの。最高峰のギタリストかつライブマンです。

原曲音源

『歩いて帰ろう』を収録した斉藤和義のアルバム『WONDERFUL FISH』(1995)

ご笑覧ください 拙演