『ジョゼと虎と魚たち』のアニメ映画バージョンが12月に公開されると知った(2020年)とき、犬童一心監督の同名実写映画を観たのを思い出した。実写映画のほうの主題歌は私が敬愛するバンド・くるり、彼らの曲の中でも特に私が好む『ハイウェイ』。

「ジョゼ」の実写映画に出演した主役のひとりが妻夫木聡だったので、同じく彼が出演した矢口史靖監督の映画『ウォーターボーイズ』を思い出した。実在する埼玉県の川越高校水泳部のシンクロ公演がモチーフになっているという。

『ウォーターボーイズ』は私の最もお気に入りの映画のひとつで、自分が十代のときに観た作品。ネット検索して久しぶりに思いを巡らせた。劇中のシンクロ公演のシーンで印象的に音楽が用いられており、その中の一曲がフィンガー5の『学園天国』(1974)だった。

学園天国

兄妹グループ、フィンガー5

狂気じみた歓声の黄色さに、いつか観たビートルズの映像、彼らが歓声を浴びる場面が私の中で重なる。

フィンガー5は兄妹5人組。当時、一番年下の玉元妙子が12歳だったと推測できる。長男の玉元一夫が19歳。

最も中心的なボーカルは四男、玉元晃、当時13歳。よくコントロールされた歌が達者。人気の面でも中心人物だったと想像する。グループ名は亡くなったマイケル・ジャクソンを含んだグループ・ジャクソン5を意識してつけたという。

はじける演奏の楽しみ

私の記憶の中で、フィンガー5の印象として支配的なのは少年少女というにふさわしい、あどけなさ(若さ)ある歌声、コーラスアレンジが肝要なサウンドだった。

改めて聴くと、曲の性格のひとつにロックンロールがある。私もコードやリズムを聴き取って歌ったりギターを弾いたりしてみると、ノリがあってテンションが上がる。演奏して楽しい曲だと実感した。逆に、落ち着きのある理知的なパフォーマンスをしても面白い曲かもしれないとも思った。カバーも多く存在する。

シャイな目立ちたがり屋

歌詞に注目。私は、内気でしゃしゃり出るのが苦手な主人公を想像した。席替えに臨み、美人の隣になれ!と願いつつも口に出さずにドキドキしているこじんまりした人物の姿である。その後の勉強へのモチベーションが席替えの結果に左右されてしまうであろうことを示す歌詞。たかが席替え、されど席替え。思慮深く、思ったことは胸に留めがちな人格なのかもしれない。

その割には、曲の出だしが“Hey Hey Hey Hey Hey”。このラインについては、人前に立って注目を集める気風の人格を思わせる。勝ち気な表現である。

心象かもしれないと思うと、現実とのギャップが面白い。シャイだけど豊かな想像力があって、創造的でエネルギーを秘めた少年なのかもしれない。

素晴らしい作家や表現者には二面性ある人物がしばしばいる。主人公の未来を思って、少しわくわくした。『学園天国』をノリ重視のおちゃらけソング程度にとらえるのは早とちりだ。はじけるみずみずしさと、じわる(じわじわ来る)うまみ。私も生徒だった頃の、弁当箱におさまったプチトマト、衣のふやけたからあげの味を思い出す。

余談 エディ・ホッジス New Orleans

歌い始めのヘーイヘイヘイ……がそっくりですね。『学園天国』は参考にしたのでしょうか。元気がはじけてやんちゃです。

青沼詩郎

『学園天国』を収録した『ウォーターボーイズ オリジナル・サウンドトラック』(2001)

フィンガー5のアルバム『学園天国/FINGER 5 SECOND』(1974)

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより
“曲のリリース時(1974年)、フィンガー5は12〜19歳の5人組兄妹ユニット。変声前の少年(四男・玉元晃)を中心にした、にぎやかで楽しげなボーカルやコーラスアレンジが目立って気づきませんでしたが、曲の性格はロックンロール。勢いとノリがあります。
歌の内容はほとんど、クラスの美人を意識して席替えにドキドキしている心の内側。意外とミニマムで視野が鋭いと思いました。
たかが席替えだけれど、その結果次第で、今後の勉強のモチベーションが大きく左右されてしまう…そんな懸念をテーマに一曲を描ききっているかのようです。
主人公は小心者っぽくもあり、みみっちくシンプルな題材にも思えます。その割には出だしが”Hey Hey Hey Hey Hey”のコールアンドレスポンスと、大げさでやかましく自信家でオラっている雰囲気。この対立が面白いです。美人を意識して内心大騒ぎになっている、シャイで奥手だけれど思考と想像の豊かな少年を私はイメージします。
実際の当時のフィンガー5は黄色い大歓声を浴び、特に大部分のボーカルをこなす玉元晃の歌は揺るぎなく堂々としています。それでいてハイトーンというところが引っかかりになってウケたのかもしれません。
作詞は阿久悠、作曲は井上忠夫。”