芝生のうえに腰掛けてくちづけるふたりの目の前に車が来ます。白い建物は……「Imagine」の映像でみたことがあるのですが同一のもので間違いないでしょうか。カントリー・クラブ(ゴルフ場)と見紛うような景色です(ゴルフ場のほうがこうした景色に似せているであろうに)。ふたりがこのグラス(芝生)の景色をいきます。小舟に乗り込んで離岸。オールで漕ぐジョン・レノン。ジョンとヨーコの顔が交互にうつります。背景がぐるぐる回る。回転する舟の上で撮ったのでしょうか。まっすぐみつめるヨーコの眼力。ヘッドホンをして歌を収録するジョンの様子が芝生や池の俯瞰とクロス。

曲について

John Lennonのアルバム『Imagine』(1971)に収録。作詞・作曲:John Lennon。

John Lennon『Jealous Guy』を聴く

ピアノ。トップノートで歌ったり、ストロークでリズムを出したり、アルペジオで和音をきらびやかに演出。

サァーーっとストリングスのトーンがサスティン。

ビブラフォンが非常に奥ゆかしく、フワァーっとたちあがるようにまあるいアタックと余韻の霞んだいろどりを添えます。特にマイナーシックスのハーモニーを出すところで存在感が高まります。

ドラムス。キックで16ビートを出しています。ハイハットは8分音符。非常に短いディレイがわずかにかかっているでしょうか。タイトで締まった音像です。ボツボツとしたキック、タムにミュートが効いています。ハイハットのオープンやライドシンバルでの刻みは極力排除。終始短いキレでジョンの詩情を生かすプレイです。

アコギのストロークが優しいですね。ダウンストロークの8分音符中心か? やわらかにリズムの背中を押します。

ベースはペンタトニック調。ⅶ番目の音階音を抜いたフィルインやライン紡ぎが特徴です。刻みすぎない打点数。1和音1ストロークのときもあります。限られたところで交えてみせるハイポジが妙。絞った音数に感動を覚えます。

ジョン・レノンのボーカルはショート・ディレイとルーム・リバーブでしょうか。彼のソロ独特のパーソナルな雰囲気がサウンドにあらわれているかのようです。間奏の口笛は歌い出しの主モチーフのメロディ。平静な調子でモノローグ風の哀愁を醸します。歌唱は終始、息の量に余裕を持たせた感じ。力みすぎず軽妙でさらっとしています。それでいて自省のエモーションがひしひしと伝わってくる。彼のパーソナル、ミュージシャンとしてのキャリア、バックボーンが静かに熱弁するかのようです。ひけらかさないことで圧倒してくる何かがあります。

コード進行

Gメージャー調。歌い出しから……

|Ⅰ Ⅵm|Ⅴ|Ⅴ|Ⅵm|Ⅵm6|Ⅴ|Ⅵm|Ⅳ|

|Ⅰ Ⅶ♭|Ⅳ Ⅴ|Ⅰ Ⅶ♭|Ⅲ♭・・(/Ⅱ)|Ⅰ  /Ⅶ |Ⅵm  Ⅴ|(2/4拍子)Ⅳ|Ⅰ|

Ⅴ、Ⅵmをうろうろする動きが頻発する前半。安定への帰結はおあずけです。安寧するのを自重する、慎み深くするかのよう。

5小節目にあらわれるⅥm6の響きが異彩な存在です。Gメージャー調なのでミ・ソ・シ・ド♯という構成音。第3音にあたるソとド♯の関係が増4度。この響きが強烈なうねりを放ちます。この部分での歌詞は“I began to lose control”。崩れ始めた秩序(制動)を和音でも体現しているかのようです。

後半ではⅦ♭(F)やⅢ♭(B♭)といった調外のバグも現れ始めます。自分の望みとは裏腹にあなたを傷つけてしまう……あなたを涙させてしまうことも望んでやしないのに……コントロールのきかない現実の様相。それらを表すかのような和音です。

調外の異質な響きですが、意外にこれらは長和音。意図しない結果が必ずしもネガティブなエコーに限らない、そんなリアルさえ感じます。さらりと光るソングライティングです。

各コーラスの終尾付近、“I’m just a jealous guy”と主題を歌うところで2/4の変拍子というか不完全小節のようなものが挿入されます。あるいは直前の小節とつないで6/4拍子ととるべきか?

ジョンの作、『Power to the People』のヴァースの部分も、定型を外し意表をつく小節数のまとまりになっていたのを思い出します。拍数や小節数にイレギュラーを含ませて引っ掛かりをつくるのがうまいソングライター、それがジョン・レノンの一面かもしれません。リズムに緩急を与えるのが巧妙。シンプルなコードづかいがかえって輝きを増し光を帯びさせる。歌詞の内容も際立ちます。

淡白さに切れ味・鋭さがある。どこまでも嘘のない男というか……仮にあっても、嘘込みで真実を提示する男。そんな感じでしょうか。

斉藤和義によるカバー『ジェラス・ガイ』を聴く

豊かな広がりある響きのアコースティックギターのダウンストローク。ボーカルには独特の部屋鳴り・残響の質感があります。独自の解釈の日本語で歌っていますね。間奏は口笛の再現。純朴です。「メール」「返信」といったワードを含めて、再解釈の世界であることがなおさら明らかになります。弾き語りを一発録音したような感じの音源。演奏の生の質感がパッキングされていますね。斉藤和義が重視する制作方針に私はいつも深く共感とうなずきを覚えます。

後記

学生の頃、『ジェラス・ガイ』はどこかで聴き及んでなんとなく知っていた気もしますが、あらためて「そうか、こういう曲もあるな」とはっきり認知する機会をくれたのは斉藤和義によるカバーでした。

焦れて不安定な心、妬み嫉み。浮つき、収まりの悪さ、はみだした違和感、いどころの無さ。マイナー・シックスのコードの増音程の不穏な響きに、主題『Jealous Guy』が遺憾無く表現されているように思います。曲を聴いていないときでも、あの響きがずっと私の胸にこだまする。

青沼詩郎

『Jealous Guy』を収録したJohn Lennonのアルバム『Imagine』(1971)

斉藤和義によるカバー『ジェラス・ガイ』を収録した『紅盤』(2007)

ご笑覧ください 拙演