くるり Jubilee

くるりのアルバム『ワルツを踊れ』(2007)収録曲。

真っ白なスタジオで端正ないでたちと、ラフな服装に野外風の背景の対比。マネキンの口にコラージュされたリップシンク、鹿(?)人間が腕を組み優しく揺れるシュールな映像。「タタタタ」と16分音符四つのモチーフ(音型)がドラムス(1:05頃)からエレキギター(1:12頃)へと渡るところがたまらなく好き。

ライブベストアルバム『Philharmonic or die』(2008)にウィーン・アンバサーデ・オーケストラとの共演が収録されている(上のリンク先の動画がそうか)。

後奏が曲の尺の半分ほどを占める。クラシカルな要素をもちつつロックかつポップのスタイルで純粋な音楽として風景・感情・思想・嘆きを描き、大衆の唇に宿る「歌」だと思う。複数のジャンルにくるりという集団が乗っかって雲のように渡っていく、独創的な曲想(くるりの近作に寄せて言うなら、万博的でもある)。『Jubilee』単体についてもそうだし、アルバム『ワルツを踊れ』についてもそうだし、くるりの歩みが万博的。

Jubilee』後奏。ずっと低音に主音を置いて保続。その上で、主和音の長和音の響きが途中で短和音に変わってまた戻ったりする。和声が光ったり翳ったり、揺らめきと明滅をくりかえす。準固有(マイナースケール)を思わせる音やセブンスの音もストリングスの旋律に含めて徐々に高揚と緊張を高め、ギターソロも含めて長尺を割いて感情や情景の複雑で多層な綾・機微を綴る。

歌詞のある部分も分数コードを多用。低音の動きやハーモニーが自由かつロジカルで、楽曲のこうした骨子にもクラシカルなスタイルを感じさせる。後奏も分数コードで分析できなくもないかもしれないが、もはや主音上にサブドミナントが乗っているのかドミナントが乗っているのか機能で解釈しようとする盲目な私の頭がパンクする。でも混沌の物語から希望が孵化し、私の頭から光が漏れる。

(岸田繁Twitterより)

リンク先の一連のツイートをぜひ読んで欲しい。歌詞の完成に至る経緯までも物語のよう。私自身が学びを得た気になる(この話、何かのメディアのインタビューを見聞きした憶えがある。出典を失念して申し訳ない)。聴き、知る程にますます『Jubilee』を好きになる。

ストリングスアレンジ岸田繁と作曲家のフリップ・フィリップの共同。フリップ・フィリップはウィーン交響楽団のパーカッショニストだそう(参考)。

土岐麻子のJubilee

2021年2月17日に土岐麻子カバーアルバム『HOME TOWN ~Cover Songs~』を発売。その先駆けに1月20日、くるりのカバー『Jubilee』を配信した。

歌とゆらめくオルガンのイントロ。祝福するみたいに、厳かに、やさしい。長い後奏のかわりにちょっと増した尺の間奏を入れるなど工夫を交えた構成とアレンジで、原曲のスケール・ボリューム感を愛で、爽やかでポップに歌い上げる好感。

青沼詩郎

くるり 公式サイトへのリンク

http://www.quruli.net/

土岐麻子 公式サイトへのリンク

https://www.tokiasako.com/

くるりのアルバム『ワルツを踊れ』(2007)

くるりのライブベストアルバム『Philharmonic or die』(2008)

『Jubilee』のミュージック・ビデオを収録したくるりの映像集『QMV』(2020)

『Jubilee』を収録した土岐麻子のカバーアルバム『HOME TOWN ~Cover Songs~』(2021)

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより
“管・弦楽器をたくさんつかってウィーンで収録された唯一無二のロックソングアルバム、くるりの『ワルツを踊れ』(2007)より、シングル曲でもある『Jubilee』。
サビメロから発想したという。「ジュビリー」という歌詞はあったが、それ以上?歌詞が書けなかったそう。
“当時、極度に歌詞書けなくなってた私は、ドイツ人のコーディネーターに悩みを相談した。彼は、すぐ書けるよ。何故なら素晴らしいこの音楽が風景や心の綾を描いているから、それをそのまま言葉にすればいい、と言ってくれた。目から鱗が落ち、スルスルと歌詞が完成した。”(2021年1月20日午後1:02 岸田繁Twitterより引用)
とのこと。曲が完成に至るこの経緯が物語のよう。私も歌詞で悩むことがあったら、この話を思い出したら書けそうな気がする。
そんな経緯を思わせる劇的な後奏が収録時間の半分ほどを占める。ストリングスが歌い、響く。和声の陽と陰が入れ替わり、開いたり閉じたり緊張したり弛緩したり。
土岐麻子が2月に出すカバーアルバムの先駆けに、1月20日からカバー『Jubilee』の配信をはじめている。壮麗な曲想をコンパクトで爽やかなポップにしていて好感。
大好きなアルバムのお気に入りの曲を改めて色んな楽しみ方で味わった。やっぱりいい曲だし今まで思ってたよりもさらにもっといい曲だと思った。”