憧れの男性のシンボル、加山雄三

私が生まれる(1986年)よりずっと前からある加山雄三のヒット曲、『君といつまでも』。加山雄三を思い出す時、同時に思い出す曲がこれである。彼の代表作のひとつといって間違いない。

ある動画共有サービスで見つけたずっと昔のライブ演奏の映像は、曲が最初に発表された1960年代後半頃の彼の人気ぶりをうかがわせるもので、熱烈な聴衆の黄色い声援が入っていた。特に間奏のせりふのパフォーマンスに対する女性観客らのリアクション(声)には、加山雄三が男性として魅力的なシンボルだった事実をずっと後の私に知らしめるのに十分だ。

しとねって何

“君はそよかぜに髪を梳かせて やさしくこの僕のしとねにしておくれ”

(『君といつまでも』より、作詞:岩谷時子 作曲:加山雄三)

しとね」とはふとん(布団)のことである。この言葉を私はこの曲で初めて聞いて知った。ちょっと気になったのは、“この僕のしとねにしておくれ”の「して」という言葉づかい。「させておくれ」ではないか? と思った。「しとね(ふとん)」にせんとする何か(つまり「髪」)の処遇を決める主体は「僕」ではない。そよかぜに髪を梳かせる「君」である。君の所有する髪を、僕のしとねにしたいのだから、「させておくれ」ではないか?

だがしかし(生まれて初めて使った)いいのである、「しておくれ」で。簡単なことだ。ここの文の主体は、「君」なのだ。「させて」などと僕が懇願することはない。堂々として「君」に申す。「僕」の気持ちはこの歌のとおりだ。それを受けて、君は「すれば」いい(僕が「させてもらう」ことなんてない)。僕と君の対等で尊厳ある間柄において、君は自分の意志でその髪を(あるいは君の存在そのものを)僕のしとねにするのだ。

もちろんこれは比喩であって、ほんとうに若大将の体の下にが自分の髪の毛を敷く必要はない。そんなふうに、抱擁、受容、承認しあう愛をただ伝えている歌詞なのではないか。

作詞:岩谷時子

作詞は岩谷時子。私の心にある曲でいうと『友だちはいいもんだ』の作詞者(このブログで記事にした)。劇団四季の『ユタとふしぎな仲間たち』のために書かれた。これは学校教育でも使われる児童や生徒向けの歌本に掲載されたり、合唱曲として認知されたりもしている。『君といつまでも』『友だちはいいもんだ』をみるに、高い理想を見据えた貴い純心をあらわす言葉が彼女の作風の特長かもしれない。

岩谷時子 NHK人物録 NHKアーカイブスサイトへのリンク

岩谷時子 Wikipediaサイトへのリンク

作曲:弾 厚作

作曲名義の弾厚作とは加山雄三の別名。尊敬する團伊玖磨山田耕筰の名からとったという。『君といつまでも』はその尊敬の念にかなった美しいメロディをしていると思う。寄せては返す波のように、ささやかにときに大胆に揺れ、満ち引きする潮のように高揚しては沈静する。加山雄三がまとう雄大な海のイメージに沿う。『君といつまでも』がつくったイメージかもしれないし、もともとの彼のパーソナリティが曲をこのように醸成したのかもしれない。

原曲リスニングメモ

加山雄三のシングル曲(1965)としてリリースされた。

左にストリングス、ハープかと聴きまがうほどクリーンなトーンのエレキギターのアルペジオ。右にコーラス、リムショットを用いたドラムス、グロッケン、うっすらとピアノのトリプレットのストローク、間奏ではストリングスのうちチェロパート?が現れる。センター奥付近のなんともいえない位置にフルート系を思わせる少し揺れたオルガンのような音、木琴類のトリプレットストローク。そして真ん中前面にメインボーカル。間奏のせりふはドライで近い音像。

厚いコーラスの対旋律、ストリングスの高音パートの刻みが絢爛。グロッケンがトップをきらめかせる。大所帯編成の音の模様はさざめき、寄せては返す。積極的な協調によって主役に花を持たせる名演。コンパクトな編成のロックバンドばかり聴いてきた私には新鮮で、お手本にしたい音づくり。エレキの大将は私にとって、歌謡とロックの橋渡しだ。

加山雄三 公式サイトへのリンク 

『君といつまでも』を収録した加山雄三『PREMIUM BEST』

『君といつまでも』を収録した『加山雄三のすべて』(1966)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『君といつまでも ウクレレ弾き語り』)

青沼詩郎Facebookより

“おおらかに高まったり引いたりする美しいメロディは「波」を思わせ、加山雄三のパーソナリティが与えるイメージと一致する。スロー〜ミドルなテンポとトリプレットのリズムも雄大さを感じさせる。作詞は岩谷時子。「しとね」はあとにも先にもこの曲でしか実際につかっているのに出会ったことのないことば。加山雄三の作曲名義の「弾厚作」は彼が尊敬する團伊玖磨と山田耕筰に由来するそう。滑らかで大胆なメロディづくりのセンスを思うと納得。”