京都音楽博覧会の見逃し配信が本日(執筆時)23:59まで。昨日は前半、岸田繁楽団とゲストパートの視聴メモを書いた。本日は後編、くるりライブだ。

愉快なピーナッツ

4拍目のウラからはじまる。オリジナル音源鑑賞時に、これがとれなくて(カウントできなくて)狂ったように分析したことがある。今回音博で久しぶりに聴いたらまたカウントがとれなくて、リズムを聴き取り書き出して夢中で分析してしまった。やっぱり4拍目ウラからはじまるアウフタクトだった。サビでオルガン。サビ後のピアノのコードの白玉(長い音符)が美しい。佐藤征史のコーラスボーカルが落ち着いたサビで調和。のちの、熱が上がる間奏の一瞬。松本大樹の歪んだギター。ぐわっとやって、また平熱に。BOBOのライドシンバルの8ビートが曲をぐんぐん前に推す。後奏もピアノの白玉がきれい。

さよならリグレット

美しいピアノのテンションある和音ではじまる。メロ折り返しのシックスティーンのピアノも流麗でウットリ。間奏も飛び交う鳥のようにピアノが転げ、滑空する。ファンファンの楽器が非トランペット。フリューゲルホルンか? たびたびやってくる間奏のピアノ。岸田繁のアコギと松本大樹のアルペジオのエレクトリックギターの組み合わせ。ファンファンの管楽器の音はまろみがあってマイルド。

京都の大学生

これまたうっとりする雰囲気たっぷりの、夜の街のネオンのピントがぼけたみたいなきれいなピアノではじまる。ファンファンはトランペットを持って吹いた。岸田繁は楽器を置いてマイクを握った。「どこいかはんにゃろうか」御国言葉が歌詞に入るとなんて鮮烈なんだろう。私、一生かかっても「どこいかはんにゃろうか」を使う(使いこなす)日が来ない気がする。歌詞で登場人物と舞台背景が潤沢に語られる曲だと思う。歌詞の抽象度が普遍性を帯びる名曲も多いくるりだけど、そのレパートリーの中でこの曲の細密な描写は映える。いや、今回の編成、メンバーの仕上がり、演奏の良さがそれを特に際立たせているのかもしれない。今回のセットリストで特に私の心を惹いた。この曲の存在感、認知度が私の中で高まった。トランペット、ピアノが雰囲気たっぷりなことよ。ここはどこ? 京都? 異国? 地元のバーか? そんな気持ちになる。心にがトリップして非日常へ誘ってくれる。

Liberty&Gravity

7月(2020年)のLIVEWIREの配信ライブでも非常にカッコ良かった。『京都の大学生』の歌詞の情報量(…というか単に曲想)から打って変わって、こちらは音楽的に情報量が多い。転々と場面がクロスフェードする珍奇な作。それでいてまっすぐで爽やか、颯爽としたポップ・ロックチューンらしさも見せる(歌が「おーまーいそ〜」となるあたり)。かと思えばラップ調になり…この曲の珍奇さを演出する片鱗のひとつが岸田繁が演奏するエレキ・シタール。エンディング付近のファンファンのなまめかしいトランペットと松本大樹のユニゾンは私の大喜びポイントのひとつで、前回のLIVEWIREのときにも心惹いた。

益荒男さん

新曲。珍奇な言葉遣いの歌詞がつぎつぎに飛び出す。ファンファンがトランペットのミュートを用いてコミカルな音を出す。終演後のオンライン打ち上げ「ツドイ」でファンファンは「吉本(新喜劇)くらいでしかあまり使わない」と語った。異彩、存在感を放つ音。じゃがじゃがっとギターのストロークでフィニッシュ。へんてこでカッコいい。今後の音源発表を期待(2020年11月11日にシングル配信、2021年4月28日発売のアルバム『天才の愛』に収録)。

潮風のアリア

また美しい曲、そして初めて聴く。こちらも新曲だ。ゆったりとした曲調が先の『益荒男さん』の珍奇グルーヴの流れで映える。松本大樹のギターは浪漫。「アリア」は旋律的な独唱曲を意味する。「潮風」のアリア。美しい響きに酔いつつその意味を思考してみる。サビの歌詞「あなたは あまたのかげをおいこしてゆくだろう ほしはながれて」(聴き取れたまま。例に倣い作詞作曲は岸田繁だろう)ほか、美しい言葉が胸に沿ってやさしい。ファンファンはフリューゲルホルンを演奏。柔らかい音色。「潮風」を演じているようにも思う。ロングトーンの息づかい、ダイナミクスの変化が美しい。

久しぶりに聴いた。イントロで期待感が高まる。懐かしさを覚える。ファンファンのフリューゲルホルンや野崎泰弘のピアノが新鮮に響く。佐藤征史の上ハモリが気持ちいい。岸田繁は頻繁にギターを持ち替える。ここではレスポールを使用している。甘く、広がりとコシのある音色。松本大樹のそれとも響き合う。伴奏を止めてボーカルソロが映える。後半の松本大樹ソロ。彼の技術はヘヴィメタを通ったものだと聞く。幅広い音楽を取り入れて消化(昇華)し、表現を抽出するくるりと松本大樹の相性の良さが妙にうなずける。

鍋の中のつみれ

今回のセットリストで特に私が見直した曲のひとつ。4月に配信、5月にCDリリースした『thaw』収録曲。CDブックレットのクレジットを見るにこの曲は2009年の作。音源では世武裕子がピアノを弾いている。『心のなかの悪魔』と近い時期の曲だろうか。今回のライブでは野崎泰弘のピアノが渋い魅力。歌詞の内容が、今を生きるくるりや私、くるりや私の生きる社会のいろいろを映しているように聴こえる。「白い宇宙 冷凍庫の中で眠る僕」「新しい命は産まれ アミノ酸にじませて 笑顔たちが遠くても 僕はひとりぼっち」(くるり『鍋の中のつみれ』より。作詞:岸田繁)。ステイ・ホームで動きを止めた私に、「冷凍庫の中で眠る僕」が重なる。でも、家の中で私は何かしている。動くことを止めたわけじゃない。ここでできることをやっている。「アミノ酸にじませて」、何かをやっている。「笑顔たちが遠くても」。引きこもって、誰とも会わなくても。「僕はひとりぼっち」。別に今に限ったことじゃない。いつでもひとりぼっちだ。今までも、これからも、誰といても。孤独でいるほどに強くいられるとも思う。人は鍋(社会。地域。集団。家…あるいは?)の中で、ほかのもの(物。者。鍋の具…)たちと一緒に、混沌となる。今回のセットリストで最も心惹かれる時間だ。この曲を大好きになった。最後の音を止めて、笑顔で舌を出す岸田繁。アンサンブルで何かあったのかな? 気付かなかったけど。

太陽のブルース

『鍋の中のつみれ』から続けて聴くに、なお浄化作用を覚える救われるような曲順。バンドはスリーピース編成だ。テレキャスターのギターでハーモニックなソロを弾く岸田繁。スリーピース時のギターソロは音の厚みを保つことに気を遣うのがバンドあるあるだ。複数の弦でハーモニックなソロを弾くことは一つの有効な解である。うんうんと私のミュージシャン心がうなずく。

私の地元沿線ターミナル駅のデッキから。無関係ですが箸休め。

トレイン・ロック・フェスティバル

嬉しい曲が聴けたと思う。今日のこの3人編成でこれが聴けるとは。ロッンロールギターが原曲の音源とは味わいが違い、勢いがあって気持ちが弾む。ギターソロ、ず太いエフェクトを効かせている! ファズかな? かっこいい。マッチョなパワー感。BOBOの気合いを感じるドラムス。

東京

岸田繁の背影。正面からの照明を受ける逆光。しずけさの余韻たっぷりに寄るカメラ。ファン垂涎の名曲。イヤ、私も嬉しい。ファンだし。黄金色のレスポールギターに持ち替えた岸田繁。ハムバッカーサウンドが太い。ピックアップはセンター。サビ前で「バツ」っとブレイク(音を止める)する。ちょうど私は最近、妻と「サビ前のブレイクについて」談義で盛り上がった。そのときに思い出して曲をかけて盛り上がったのがこの『東京』。ハイポジションを交えたギターストロークリフ、このカッティングを私はさんざん真似した。全国のバンドキッズが一体何人真似したことか。私の青春である。「上京してきて井の頭公園のトイレで寝た」という岸田繁の話をいつかどこかで聞いたのを思い出す。トイレが「寝心地よかった」とも(出典不明…すみません。私の妄言かも)。レスポールのサウンドはこの曲の重要なキャラに思えるがオリジナル音源でもレスポールかしら? あるいはライブを鑑賞した後で築いたイメージなのかどうか。複数の弦を鳴らしながらのチョーキングがかっこいい。BOBOと佐藤征史のエンディングのコーラスボーカルが胸熱。ユニゾンが揃っていて響きがまっすぐ飛んでくる。BOBOさん歌える!(失礼)

ロックンロール

再びフルの6人編成に。7月のLIVEWIREでも抜群にかっこ良かった『ロックンロール』。メンバー構成も全く一緒なのに、前回と違ったタップリめなグルーヴを感じる。コーラスボーカルに加わる鍵盤の野崎泰弘が映る。ここでも松本大樹のソロが見もの。ずっと聴いていたい。半音でずりあがるベースフレーズを合図に(?)シメ。シックスティーンでタンバリンを振り、叩き続けるファンファンにも気合いを覚える。

怒りのぶるうす

『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER』初回限定ディスク3でおなじみだったこの曲は4月に『thaw』に収録された。『ロックンロール』からのこのモッタリ粘っこいブルースロックがメリハリをセトリに与える。激高して何言ってるかわからんように畳み掛けるボーカルと激しいオルタネイトギターストロークを呈する岸田繁。そのままサスティンの強いエレキギターの浮遊した後奏。向こう側の景色を垣間見る読後感。

Tokyo OP

ライブでこの曲が聴ける感嘆。ギターの変則チューニングのエチュード(練習)として生まれたフレーズをきっかけに別の構想を足してできた曲だとインタビューhttps://mikiki.tokyo.jp/articles/-/19158?page=2で読んだ。最初は収録するつもりがなかったくるり12枚目のアルバム『ソングライン』の当初の構成にこの曲を足してアルバムが12曲の構成になったのだとか。ギターの運指に釘付けになる。トランペットのストップ・アンド・ゴーなリズムがかっこいい。32分割のギターストローク。シンセのチープな音が怪しげで妙演。岸田繁のエレクトリック・ギターからもときおりギターシンセのような珍妙な音を感じる。ボトルネック奏法も交えてよりどりみどりの音楽博覧。突然現れる教会音楽風から、狂ったような調子の変移。ベースもグルーヴを支えつつ随所でユニゾン。岸田繁と松本大樹の2本のギターの息もピッタリ。バツっとカットアウトで暗転。きまった。かっこいい。

ブレーメン

ファンファン、佐藤征史、岸田繁の3人に。アコースティック・ギターを持った岸田繁。前半に岸田繁楽団とゲスト・シンガー小山田壮平で聴いた曲がくるりライブで再登場。一連のステージで同一の曲の異アレンジが聴ける機会はそう多くない。選曲の意図、構成にあたる意図に興味が湧く。このまま河原などで3人でやっていてもよさそうなストリート魂めいたものを感じる。大所帯のオケでホール公演をやったこともあるであろうこの曲の懐の深さを思う。岸田繁のまなざしはまっすぐで真剣。オケとやろうとも、3人でやろうとも根差す魂は同じなのだろう。たとえば今日のような楽団やゲストと一緒にやろうとも。「この曲はこのアレンジに限るだろう」という名曲も世にはあると思うけど、さまざまな局面で新しい解釈を生むのもまた名曲たる所以である。

キャメル

イントロが印象的。曲中、このイントロフレーズが帰ってくる(再現する)ことはない。ファンファンのくるりへの加入時期に近い頃の曲だったかと記憶している。映画の主題歌でもあった。強拍のストロークがほんのりスウィングを帯びる。そのやんわりとしたハネたノリの中でのフラットでイーブンなエイト・ビートがスパイスになる。かわいらしいタンバリン、持ち替えるファンファン。エンディングで3人でコーラス。イントロのみのモチーフ、エンディングのみのモチーフに挟まれた曲。アイディアが面白い。こういう構成もあるのか。私はくるりから学んでいる。

宿はなし

暗転を経る。優しいギターのストローク。音博のラストといえばこの曲。音博「配心」予告ムービーにもこの曲が用いられた。歌い出しがやわらかい。ファンファンのトランペットが夕焼けを思わせる。映像中、エンドロールの字幕がせり上がって重なる。最後にメンバー3人でシメ。7月のLIVEWIREでもこの編成でセトリ結びの3曲を聴いた。引き算のアンサンブルに感動。引くほどにあらわになるものもあるのだ。

笑顔とポーズを決めた6人の写真でフィニッシュ。ああ、よかった。これまでとこれからの梅小路公園に思いを馳せる。

青沼詩郎

くるり オフィシャルサイトへのリンク

京都音楽博覧会Twitter
https://twitter.com/kyotoonpaku

『潮風のアリア』『益荒男さん』ほかを収録したくるりの13thアルバム『天才の愛』(2021年4月28日発売)

『愉快なピーナッツ』『さよならリグレット』『太陽のブルース』ほかを収録したくるりの8thアルバム『魂のゆくえ』(2009)

『京都の大学生』ほかを収録したくるりのカップリングベスト『僕の住んでいた街』(2010)

『Liberty&Gravity』ほかを収録したくるりの11thアルバム『THE PIER』(2014)

『虹』『東京』ほかを収録したくるりの1stアルバム『さよならストレンジャー』(1999)

『鍋の中のつみれ』『怒りのぶるうす』ほかを収録したくるりのコンセプトアルバム『thaw』(2020)

『トレイン・ロック・フェスティバル』ほかを収録したくるりの3rdアルバム『TEAM ROCK』(2001)

『ロックンロール』ほかを収録したくるりの5thアルバム『アンテナ』(2004)

『Tokyo OP』ほかを収録したくるりの12thアルバム『ソングライン』

『ブレーメン』ほかを収録したくるりの7thアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』(2007)

『キャメル』ほかを収録したくるりのベストアルバム『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2』(2011)

『宿はなし』ほかを収録したくるりの2ndアルバム『図鑑』(2000)

後記

1999年のメジャーデビューシングル曲『東京』からこのライブ時に未リリースの新曲まで20余年にわたるキャリアをまんべんなく横断する「博覧会」らしいセットリスト。つまり、20年以上前から準備していないと、この音博ライブはできなかったということ。それを言い始めたらなんでもそうかもしれないし、もっと言えばくるりメンバーの誕生からとか地球や宇宙の歴史からとかになってしまう。けど、そんなことこぼしたくなるスペーシーな満足感だ。