渚にまつわるエトセトラ 開放感あるMVを観る

YouTubeチャンネル 「Sony Music(Japan)」→「PUFFY 『渚にまつわるエトセトラ』」へのリンク

夕空を背負ったふたりのシルエット。タイのキックボクサー? ロケ地はどこでしょう。非常にめまぐるしくカットが切り替わります。ビーチバレーする観光客? 浜辺で向き合うボクサーを背景にパンチする振り付け。カニをバーベキューで焼いています。これは想像しなかった。カニはゆでたものを屋内で食べるイメージでいました。黒のTシャツ、白のTシャツとPUFFYの衣装が変わります。

バンジージャンプのカットにはややていねいに尺を割いています。犬を浜辺で散歩、水上モービル? みたいなものに乗る2人。つけヒゲの顔面のインパクトが強いです。エンディングはヒゲダンスのパロディ。鼻をつまんで潜ってドロン風に画面下へハケ。ふたりのシルエット風切り絵? でフィニッシュ。めまぐるしい。リゾート感あります。なんだかわからないけどハチャメチャで元気があって楽しくて散らかっていてオープンな映像でした。

曲について

作詞:井上陽水、作曲:奥田民生。PUFFYのシングル(1997)、アルバム『JET CD』(1998)に収録。

PUFFY『渚にまつわるエトセトラ』を聴く

スネアの「タッ」と一発のストローク。エレキの歪んだサスティン、ストリングスの華麗な音形。なぜでしょうか、猛烈に松田聖子の某曲(青い珊瑚礁)を思い出します。華やかなオープニング。ラテンパーカス。1拍を分割し8分のリズムでオクターブ上下するベース。ドラムスのキックは当然4つ打ち。サビで2拍目・4拍目のスネアに合わせてクラップが入ります。なおパーティー感。奥田民生のコーラスヴォイスもきこえます。音程はAmi/Yumiの1オクターブ下ですね(井上陽水はいやしないのでしょうか?)。ワンコーラス後はちいさな間奏。エレクトリック・ギターのオープンな単音ストローク。倍音豊かです。最後のコーラスの「白いハッピービーチ」という歌詞の発音のときに、「白い」で舌を巻いているのが気になります。やけに勝気漂いますね。挑戦的です。最後の歌詞「リズムがはじけて恋するモード」を言い終えたあとは、それまでにないコード進行パターンが現れます。エレキギターがビターな音を奏でるかたわら、かなり割り付けのこまかい、トレモロサウンドのようなシンセのカリカリいうトーンが入ってきます。エンディングは完璧なまでにキメてフィニッシュしたかと思えば4つ打ちが続き、フェイド・アウト。ラテンパーカスのポコポコ音にウゴゴのこする音がヒコキコと鳴ります。意味ありげなエンディングです。

歌詞のおかしみ

奥田民生の音楽愛と遊びの作曲に加え、井上陽水による歌詞が珍妙愉快。

特に私が気に入っているラインがこれ。

“松原ではすぐリキュール”

1コーラス目のサビに入る直前の歌詞です。

松原ってどこや

松原ってどこ? 地名なのでしょうか。私が真っ先に思いついたのは長野県松原湖。釣り少年だったもので……。それは湖の名前ですし、まぁまず違うとして…

日本各地に松原はあります(Wikipediaサイトへのリンク)。

大阪の松原市?(Wikipediaサイトへのリンク)普通に都市っぽいですね。リキュールくらい街で飲めそうです。

あるいは東京都世田谷区松原?(Wikipediaサイトへのリンク) こちらもリキュールが飲める店はいくらでもありそう。歌詞を見るに、「店で飲む」とも限らないですけれどね。

東京や大阪はミュージシャンがツアーをするホットスポットでしょうからありえるなと思ったのですが、次は井上陽水の故郷周辺をかんがみてみます。

福岡県行橋市松原

井上陽水は福岡県出身(Wikipediaサイトへのリンク)。その福岡県にも……松原が存在するではありませんか。福岡県行橋市(Wikipediaサイトへのリンク)です。県内東部。海に面しています。漁業が興っていて、ワタリガニがとれるそうです。……ん? カニ? そう、直後のサビの歌詞で出てくるじゃないですか!“カニ食べ行こう”

井上陽水の故郷は県内中央部で、松原のある行橋市よりは内陸に位置しているようです。彼の過ごした街から海に出ようと思ったら、一番近い海は県内東部、松原のある行橋市の海だったかもしれません。

ちなみに、ワタリガニのことをガザミと呼ぶようです。この地域だけなのか、ほかでも通用するのか? それはちょっとわかりません。

ガザミという発音から連想するのは、井上陽水作詞の超有名曲、『少年時代』に出てくる有名フレーズ、“風あざみ”です。

「ガザミ」と「風あざみ」。似ていませんか。

『少年時代』の歌詞(歌ネット サイトへのリンク)に、急にガザミ(ワタリガニ)が出てくるのはちょっとヘンです。

ですが、少年時代の夏の記憶に思いを馳せる行為は、曲想に沿います。

そのワンシーンのどこかに、ガザミ(ワタリガニ)の姿があってもおかしくないと思いませんか?

歌詞に適当な発声・発音を割り付けておいて、後から調整をほどこすのは作詞や作曲者の常套手段です。

これは私の妄想で「たとえばの話」なのですが、「なぁ〜つまつぅ〜りぃ〜、カニ・ガザミ〜」とか適当に歌って歌詞の骨子をつくっておいて、あとからもっと風流にカッコつくように言葉をブラッシアップしていくなかで、「“夏祭り・カニ・ガザミ”じゃあんまりだよな。“夏が過ぎ風あざみ”にしとくか。おう、なんか明媚でイイ感じになったじゃん。」なんてプロセスでこの名句が生まれていないとも限らないのでは……?!

単なる私の妄想ですが、井上陽水の原風景に想像をめぐらせていると、いろんなことがつながって真実に思えてきます。その体験は痛快。頭の中に名曲由来探偵でも飼っているみたいな気分です。

妄想推理に夢中になってしまいました。繰り返しますが、他にも松原という地名は国内に多々あります(Wikipediaサイトへのリンク)し、それどころか、なんと中国にもある(松原:しょうげん)(Wikipediaサイトへのリンク)ようです。『渚にまつわるエトセトラ』には“マゼラン”(南米にある海峡?)も出てきます。広い世界に目を向けているのだとしたら、中国の松原を指していてもおかしくはない?

とはいえ、私としては福岡県行橋市の松原であると思いたい・この解釈を推したい。ただの個人的願望ですが、故郷周辺の原風景がソングライティングに影響すると考えるのが合点しやすい。可能性の話でしかなく、アっと驚く真実があって欲しいとも同時に思いますけれど。あるいはすべてを一蹴し「意味なんかねぇよ。ただの思いつき。特定の土地を指すものでもない」が真実かとも思います。もちろんそれでも良い。なんにせよ気持ちが良いです。

リキュール

松原の解に夢中になりましたが、“松原ではすぐリキュール”という言葉の連なりが好きなのです。

リキュールとは酒ですが、酒の中でも特に副原料の混じっている種類のものをいうと思います。お砂糖とかの甘味とか、香味・風味づけの植物とかが混じっているものですね。動物性のものもあるかな。乳とか?

「リキュール」はもともと、「液体」をさす語句から来ているとも思います。酒全般をなんとなくボヤっと指して“すぐリキュール”(すぐお酒飲んじゃう)と言っている、くらいにテキトーにとらえるのもおかしみです。“松原ではすぐリキュール”。ほら、なんか良くないですか? 交じりたくなりませんか? 海辺で一緒に飲もっかね……ってなりません?

“あのペリカンさみしそう”(2コーラス目Bメロ)

ほっといてくれって思いません? 勝手にさみしいことにしないでよ! って、私がペリカンなら言います。いえ、人間ごときになんと言われようと、ペリカンはみじんも気にしないかもしれません。そんなおかしみがあります。

“お魚にもあのパフューム”

2回目のサビの直前のラインです。ここ、1コーラス目では“松原ではすぐリキュール”だった場所です。

“あのパフューム”ってなんの芳香でしょうか。カニの匂い? お魚にもカニの匂いがついちゃう、みたいなことでしょうか。魚に「お」をつけているのもおかしみです。あるいは、1番で飲まんとしていたリキュールのパフュームだったりして?

“止まり木にあのハリソンフォード”

2コーラス目のサビの途中。ハリソンフォードも青天の霹靂です。なぜに急に自分に白羽の矢が??!……と、私がハリソンフォードだったら思います。“止まり木”が可笑しい。鳥かよ。

バカにしている!とかではなく、ナンセンスが私の大好物なのです。“止まり木にハリソンフォード”はありえないでしょ? いえ、実現しようと思ったら、やってやれないことはないでしょうけれど。そう考えると、ナンセンスというよりシュールと解釈するのが適当か。でもありえないですよね……止まり木にハリソンフォード。「電線にハリソンフォード」とかよりはだいぶ容易いかもしれません。

それを拝めた日にゃ、“私たちはスゴイラッキーガール”。ええ、ええ、確かに。だって、まず見れないですもん。吉祥寺や三鷹で楳図かずおを目撃するのとはワケがちがいます。

後記

井上陽水の歌詞を堪能すると、あまりの発想の珍奇さに毎度クラクラします。今回もだいぶヤられました。固有名詞が登場するので現実にも目が向きます。いっぽうで、現に存在する固有名詞を用いた上で、ありえない世界(フィクション)を描いているのが妙です。半端な固有名詞づかいでは、「なんでここでコレ(固有名詞)が出てくんねん」と収拾がつかなくなりそう。まるで井上陽水は「きれいにまとめる平凡さ」すら笑っているみたいです。想像を超越した世界を見せてくれる。私の関心はいつもそこにあります。

「収拾つけるキレイさ」をくつがえすかのような作詞ですが、タイトルの『渚にまつわるエトセトラ』は言い得て妙。たしかに、「で、結局?」と最終的にこの曲想をひとことで求められた場合、これ以上にないのでは。海周辺の景色や記憶、思いつきの至る道筋に唯一のまとまりを与えつつ、独創の光るネーミングです。

図:『渚にまつわるエトセトラ』ボーカルモチーフの採譜例。ペンタトニック・スケールとダイアトニック・スケールのいいとこどりをしたようなメロディがごちそう。モチーフと歌詞“行こう”の反復でその気にさせます。

青沼詩郎

井上陽水 公式サイトへのリンク

奥田民生 公式サイトへのリンク

PUFFY 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>渚にまつわるエトセトラ

『渚にまつわるエトセトラ』を収録したPUFFYのアルバム『JET CD』(1998)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『渚にまつわるエトセトラ(PUFFYの曲) ギター弾き語り』)