安西マリア

ババーーー♪ ブラスの勇ましいイントロ。“ギラギラ太陽が”という一句でもうガッツポーズしたくなります。おれたち、勝ったわ!とハイタッチしたくなる勢いです。

伸びるギターにはフェイズがかかったようなシュワシュワとした音色の揺らぎ。そのバッキングに鋭いサウンドのギターがオブリガード、艶めかしくせり上がるフレーズ、チョーキング。

ダブリングの効いたメインボーカル、かと思えばBメロでは効果が外れて明瞭な輪郭のボーカルがバトンを継ぎます。

で、おまちどぉっ、なAメロパターンに戻り、ダブリングの効果も復活。各パートの音作りの意匠が細かく、楽曲の本気度、熱情を引き立てます。くゥ!(グッとくる)。Aパートにハナがあり、ぶちかましてBで空気を入れ替え、黄金色に輝かんばかりのAパートに帰る楽曲構成。私は名演のシャワーを浴びています。

間奏ではF-1のマシンかジェット機が過ぎるサウンドが効果を出します。勝負に望む漢(おとこ)の健闘を祈るレース・クイーンがピット付近で待っているような設定を勝手に想像します。我ながら物の見方の偏った救いようのない古のステレオタイプな比喩ではありますが……この音源のパフォーマンスが、リスナーが暴走に赴くまでの想像を起こすのに十分なエネルギーを秘めている所以と、お茶を濁させてください……。

とにかくこれでもかとテクとエナジーを爆発させるエンディングのエレキギターに至るまで、勇ましさが突き抜けています。昇天。

エミー・ジャクソン

https://youtu.be/luJR213X2oU

エミー・ジャクソンが英語で歌っています。これが曲をレコードで残した最初のもののようです。彼女は日本の育ちで深津エミという日本名を持ち、湯川れい子がDJをつとめていたラジオ番組のアシスタントだったそう。洋楽として売り出されたのにはいろんな事情や企図があった様子か。興味深い記事をリンクしておきます。

TAP the POP > GSブームに先鞭をつける和製ポップス第1号、「涙の太陽」は洋楽評論家だった湯川れい子の作詞家デビュー作

WHAT’s IN? tokyo > ニッポンの洋楽の立役者たち 音楽評論家・湯川れい子インタビュー①

まるでベンチャーズそのもののようなサウンドです。ベンチャーズの初来日は1962年、日本で人気が出たのが2回目の来日の1965年とのことで、エミーや青山のシングル『涙の太陽』が出る数ヶ月前の出来事です。まさに“「時の人」の音”的なサウンドだったのでしょうね。

青山ミチ

エミー・ジャクソンと同1965年、約1か月違いで発売しシングルで日本語で歌ったのが青山ミチでした(先日このブログで取り上げた『亜麻色の髪の乙女』を最初(1966年)に歌った人で、原題は『風吹く丘で』でしたが事情があって発売できなくなり、ヴィレッジ・シンガーズのシングル曲(1968年)となりました)。

曲について

作詞:湯川れい子、作曲:中島安敏

エミー、青山がGマイナー調で歌っています。ソから上のシ♭(1オクターブ+短3度)の声域が出せれば歌えます。安西は半音上のA♭マイナー調で歌っています。

Aメロから曲中の最高音程。“ギラギラ太陽が”の「た」のところですね。冒頭でもいいましたが、歌い出しの“ギラギラ太陽”という一句が必殺です。これでもはや「勝ち」で「価値」であり、「買った買った!」って感じですね…取り乱してしまいます。太陽のギラギラのせいか。このイメージを利用して、日焼け防止効果のある化粧品のCMに使われていたのを耳にした記憶があります。

“ギーーーラ ギーーーラ”、それから“もえるーーーー ようにーーーー”といった具合に、長い音符をバンバンつかっています。歌い手の声の伸びを必殺のコピーとともに聴かせるメロディ。歌唱力(声の魅力)+金言級コピー(歌詞)+これらが活きるメロディ=銀河級です。

青山ミチは移勢させることなく歌っていますが、安西やエミーは“太陽が”の単語に移る瞬間に半拍食っています。推進力が出ますね。安西に至っては、「太陽が」の「う」と「が」でも食っています。この勢いの良さが再ヒットを手伝ったかもしれません。

長い音符を含ませて聴かせたAメロに対して、Bメロは歌の熱量は控えめです。歌のおいしさの比重の采配でいえば、この曲はAメロに重心があり、Bメロの前半はやや脱力するところになっています。Aで平静な導入、Bで盛り上げるといった構成とは反対のつくりかもしれません。

歌のおいしさの比重は圧倒的Aメロですが、リズムの込み入り具合はむしろBが急いています。8分音符を連打しながら順次〜軽微な跳躍で音程を上下行。丘陵地帯の山谷を登り降りするような、ラフティングで激しい流れをすいすいとさばいているような(わかりにくい?)。

一度はBメロを力の抜きどころみたいに言ってしまいましたがBメロ後半に展開があります。“なぜ なぜなの”の部分です。「なー   ぜー   」と、歌メロの発声(音数)の密度を曲中で最も下げています。からの、「なぜーなのー」でやや密度を回復します。景色が刻々と変わるようです。そして、先刻のAメロ形に戻るのです。

ギラギラのスピード

歌詞の内容からはシンプルに恋のしびれ、激情を感じます。主人公が翻弄されている様子も? Bメロでやきもきしたエネルギーを蓄積して、Aメロの再来で発散させる痛快さがあります。

意味や比喩が込み入った詩の良さ、あるいは意味や比喩を超越した深い詩の良さももちろんありますが、歌詞においては、題材をありのままに提示する(もちろん独自の視点は必要)ことでヒットがつくれることもあるようです。

『涙の太陽』はその点で鋭く、スピード感があります。言葉や音、歌い手のパーソナリティが一体となってガツンとリスナーにぶつかってきます。何より、焼き付けるような太陽とその温度を想像させる“ギラギラ太陽が”という黄金の一句が雄弁です。このワンフレーズでほんの5秒くらいなのに、心を掴んでしまうのです。

青沼詩郎

エミー・ジャクソンの『涙の太陽』収録盤。

青山ミチの『涙の太陽』収録盤。『亜麻色の髪の乙女』としても広く知られる『風吹く丘で』(改題前の曲名)も収録しています。大舞台の端っこまで届きそうな圧巻の歌唱。

安西マリアの『涙の太陽』収録盤。アレンジメントや音作りのかっこ良さ、光ってます。編曲は川口真このブログで取り上げたことのある、『ドリフのピンポンパン』の編曲者でもあります。あちらはにぎやかでコミカルな編曲でした。

ご笑覧ください 拙演