映像

MV

リビングかベッドルームか。テレビの砂嵐(ホワイトノイズ)は今では見られなくなりました。コメディ番組、西洋風のやつがはじまる感じです。画面に『BIG BELLY SHOW』の文字。娯楽番組でしょうか。観客の笑い声のエフェクトが入ります。インタビューのシーン。そんなに笑える? というところでもふんだんに笑い声が入ります。神妙な顔つきで女性がそのテレビ画面を眺めます。ステージではMr.Childrenに扮した(?)役者さんが歌うアテブリをします。不自然でどこかぎこちありません。

役者? がチェンジ。別のバンドのシーンになりました。さっきよりキテレツな感じのバンドです。さきほどは横分け・ジャケットにメガネのインテリ風でしたが2番目のバンドは酒とタバコとドラッグは漏れなくやっていそうな感じ(偏見)。間奏のシーンはスローモーション。前後の2バンド、画面をながめる女性の表情が映されます。間奏が明けて司会者の口上。前後の2バンドが激しくザッピングして見せられます。画面の前のベッド(ソファ)? の上の女性がハネます。音楽にノっている感じか。最後のシーンでは女性が桜井和寿にすりかわっているシーンに一瞬なりますがリモコンでスイッチオフのとどめ。

ベッドルームで画面を眺めているのは「女性」に私には見えたのですがWikipediaページでは少年と紹介されています。男性の役者さんだったのでしょう。

ライブ

Mr.Children Official Channelより Mr.Children「ニシエヒガシエ」MR.CHILDREN DOME TOUR 2005 ” I ♥ U ” ~ FINAL IN TOKYO DOME ~

割けんばかりの歓声。アコギのリフはエレキが担当。ファルセットのフェイクでハイテンションなボーカルが前奏に響きます。身振りも激しい。マイクのみを持ってステージを走り、歌います。画面も激しくカットがかわります。照明も激しい。遠くからズームで射抜くカメラのカットのブレが臨場感を演出します。頭を振る桜井和寿。スライドギターの奏者のムダのない身ぶりが際立ちます。

ずっと激しかった展開に間奏がつかのまの落ち着きを呈します。間奏の終わりを告げるドラムリフは録音でしょうか? 音源の印象と一緒です。間奏明けはボーカルにエフェクトがかかります。崩しの入ったライブならではのボーカルです。ラストのサビになって激しさの極到。桜井和寿がスポーツの試合を思わせるくらいに機敏にステージを走ります。エンディングの歌詞「猛ダッシュです」のとおりですね。

曲について

作詞・作曲:桜井和寿。Mr.Childrenのシングル(1998)、アルバム『DISCOVERY』(1999)に収録。

音楽の仕掛け

リフ

・ギターのリフを中心に前奏・後奏・Aメロが構成されています(高校生の頃、真似したなぁこれ……)。

メインリフ 譜例

Bメロ

・Bメロのコード進行に特徴があります。1コーラス目の歌詞でいうと“そしていつしか慣れるんだ 当たり前のものとして 受け入れるんだ”のところです。

|D♭/E♭|C/D|D♭/E♭|D|

Ⅴ♭/ⅵ♭とでもいうのでしょうか、D♭/E♭→C/D(Ⅳ/ⅴ)。上声と低音位がズレたような、内臓が浮く響きのまま半音平行する動きが面白いです。

後半2小節の|D♭/E♭|D|(“当たり前のものとして受け入れるんだ”)のところで、全音ズレた響きの上声と低音が反行して元にもどると同時にドミナント(ここではDのコード)するのが爽快。上声は半音上行、低音は半音下行。楽器で弾くとよくわかります。私の聴き取りが合っているとも限りませんが……こんな解釈も面白いと思います。

演奏例イメージ(ギター)

間奏

・4/4だった拍子が、間奏で12/8になります。1拍3分割。8分音符が占める長さはそのまんまのテンポです。

ここのコード進行がまたイカれていますね。(4小節パターン×2)×2といった感じ。4小節目と8小節目にちょっと違いがあります。

|G|F#|C|C♭|G|F#|C |C/E F7 F#7| こんな感じでしょうか。8小節目は動きを出しています。よく聴くと分数でⅣ(Cのコード)をとっている感じがしました。巧みです。上声と低音の関係や半音平行で緊張感を高めています。イカれた進行なのに機能を与えることに成功している感じが絶妙。これを音楽的な挑戦とみなさずになんと言いましょう。変態と理性を感じます

ここで上に乗ってくるトレモロサウンドのメロディがなお変態です。歪んだトーンでワウを効かせてトレモロピッキングした感じのミャウミャウワウワウいうサウンド。変態的なエクスタシィを感じます。

旋法にクセがある感じだなぁと思ったのですが、音の進み方が全音音階っぽいです。

間奏 ギター 譜例

この展開に終止符をうつのがドラムス。

|●・・●・・●・・●・・●・(・・)|(タドドドドドドドドドン!)

といった感じ。3連の各アタマを強調するフレーズ。ですが、このときすでに1拍4分割のグルーヴに戻っています。だからズレ感を味わえるのです。ローファイな感じに音が加工されていますね。閑話休題のジングルです。

後記

昔から純粋にカッコイイなと思い、好んでいた曲でした。リクツっぽい目でみるとかなり面白い音楽的な仕掛けがしてあることがわかります。

イントロには打ち込みやサンプリング風の香りが漂い、ただちに曲のメイン・イメージをつかさどるギターのリフがはじまり、次いでジャガっとささくれたようなビターなサウンドのバンドの音が入ってきます。そこからラウドな体感温度がつづき、間奏で緩みます。

歌詞の響きを重視して感じます。子音や音節の鋭さが気持ちよく刺さります。攻撃的なのですが勘所が良い。気持ち良いのです。

針の穴すらも精確に射抜くカッコ良さ。なのにMVがあえてシマリのないパロディ調なのがヘンテコなセンスです。いぶかしげに見る少年のまなざしがリスナーの違和感を表現してくれているかもしれません。

関係はまったくわかりませんし知りませんが、井上陽水に『東へ西へ』という曲があります。大好きな曲。

ミスチルのソングライター、桜井和寿氏を音楽愛の人だと私は思っているので、偉大な井上陽水氏の作品が『ニシエヒガシエ』の発想元のひとつになっているかもしれませんし、もっとほかにあるのかもしれません。そもそも全然関係ないかもしれませんしそのへんはよくわかりません。言葉の響きそのものを尊重し、寄ったり拾い上げたりして構築する妙についていえば、井上陽水氏も桜井和寿氏もずば抜けています。その辺りで両者には響き合うものがあります。勝手に面白がっている輩が私ですが、ご本人たちも意識し合う仲でも不思議はありません。

青沼詩郎

Mr.Children 公式サイトへのリンク

歌詞『ニシエヒガシエ』(歌ネット)

『ニシエヒガシエ』を収録したMr.Childrenのアルバム『DISCOVERY』(1999)

ご笑覧ください 拙演