明るい表通りで(On The Sunny Side Of The Street)を聴く

バンバンバザール

『Suge Ban Ba!!』収録音源のようです。

やさしいドラムス、左のやさしいダウン・ビートのギター、右のリフ・ギター、真ん中にもダウン・ビートのベース。こじんまりした編成で約8小節聴いたらバンドが入ってきます。ごきげんな音です。管楽器はトランペット、トロンボーン、サックスが聴き取れますが何本いるのでしょう、パートによって複数いるかもしれません。ボーカルの声質のほろろと枯れた感じが沁み入る素敵さです。Bメロで両側からコーラス・ボーカル。管楽器メンバーが吹いていないときにコーラスを歌うといった分担ができそうな編成ですね。ワンコーラス終わるとヒョイと半音上がる転調です。管楽器のお囃子(間奏)。ひとまわししてギターソロにタッチ、アコギソロでしょうか。そのあとまたバトンは管楽器に戻されます。間奏後はBメロに戻ります。こんどのBメロは金管がにぎやかに鳴っています。最後は結びのフレーズを盛って伸ばしてかきまわしてシメ。ごきげんになれるプレイでした。

新倉美子

新倉美子(しんくら・よしこ)。

大人っぽい色艶のすごいサクソフォン。ドラムスのハイハットが右からきこえますね。ブラシがしゃぁしゃぁ鳴っています。ベースもつつましやか。ピアノがウワモノ役ですね。インストをひとまわし、ようやくボーカルが入ります。ジャケットのうるわしい容姿から想像したよりも場数を踏んだ感じの大人っぽい歌唱と声質に思えます。非常におちつきのある聴きやすく平静なボーカルです。ボーカルがワンコーラスののち、トランペットソロ。音域を上の方から下の方までマッサージするように上がり下がり。途中のダウンビートの連続が気分を盛り上げます。トランペットが明けてまたボーカル。折り返しのあたりからトランペットもボーカルにからみます。一瞬ブレイクをいれてサックスもさりげなく絡みだします。品のあるゴキゲンサウンドでした。

ルイ・アームストロング

Louis Armstrong – On The Sunny Side Of The Street (1956)

野生が、大地がそのままぶつかってくるような圧倒的なトランペットです。きもちのよいゆったりめのテンポ。主役のトランペットのややうしろでクラリネット、トロンボーン、サックスなどが下行形のオブリガード。ひゅるひゅると音の紙テープが投げ込まれるみたいです。トランペットソロのあとはサッチモのボーカルです。のどの奥をぐるぐると鳴らしたような独特の発声はトレード・マーク。管楽器で和声をつくっているかんじです。むしろピアノがポロポロと踊るように自由。高い音域でのオブリガードもみせます。すごい自己主張でボーカルに入ってくるソロはトロンボーンでしょうか。それにさらにクロスして激しいトランペット。サッチモは歌と兼任なので、ボーカルからほかのメンバーにソロを渡したあとにまた自分のトランペットにソロを返してもらうといったセンタースポットの出入りが想像できます。

吾妻光良

mitsuyoshi azuma 吾妻 光良 sunny side of the street

吾妻光良はバンバンバザールの1stアルバムをプロデュースした人ですね。熱気あるステージの最後の方の曲順だったのでしょうか。軽快……というか熱気と汗のほとばしるテンポ感です。間奏のエレキギターはかなり激しくなり客席も盛り上がります。ベースのチョッパーのようなエンディングのギターリフ。多様な奏法が達者です。大ベテランですね。お見事です。エネルギッシュ。

フランク・シナトラ

消音器をつけたトランペットのリフが独特。右のミューテッドトランペット→左のオープンサウンドの管楽器→右寄りのバッパッと低音金管という順番に呼応するイントロが面白い。ベースが右寄りにいます。エレキギターも右寄りですね。ドラムスも右寄りでしょうか、ブラシでパサパサと。ベーシック・リズム系は右に寄せたのですね。左にビブラフォンが現れます。右・左の管楽器が多様にオブリガードしあいながら線を描き込みつつ和声を出します。あまりタテにしばられていない自由な感じがしますが緻密に要所ごとにタテの和声も狙い済まされている感じがします。後半のブラス類の厚みはかなりのものです。全部で何本いるのでしょうか。右にミュート管がいますが左にも現れることもあります。フランク・シナトラを忘れさせるほど編曲に夢中になってしまいました。

カウント・ベイシー

うなりながらピアノ弾いていますね。キース・ジャレットもうなりが録音にすごい入っている人だったのを思い出します。結構ジャズに多いのかもしれません。ベース、ドラムス。トリオですね。キュッ、クリッと指がベース弦に絡み・擦れ・離れるアタック音までおいしい。ピアノの単旋律のメロディ。たまに2声にも。左手でところどころに和音を置く感じです。ボーカル音楽だったら人の声がいるような帯域にピアノのストロークをリズムのスパイス的に置きながら右手中心にメロディをつむぐのですね。ときに左手で声部を付加したり素早く広域にわたるフレーズを補助したりもしているのかもしれません。ライブで見てみたい。中ほどでベース・ソロ。ハイ・ポジションの伸びが良く気持ちいいですね。かなりたたみかけるフィンガリングもみせます。ベランと声がひっくり返ったような音色を見せたり、ロックの歪みエフェクトをかけたようなブルっとにじんだゲイン感ある音を出したりと表情に富みます。ベースソロを経てピアノにスポットライトを戻します。半音で這うような動きや火花が散るような素早いプレイを緩慢なサスティンに混ぜるピアノ。でまたベースに襷です……と思ったらもうほとんどエンディングですね。ピアノがモチーフを音域を転位させて数回、静かにフィニッシュです。小気味良い。

(YouTube概要欄より)ベース:レイ・ブラウン、ドラムス:ルイ・ベルソン。

曲の出自について

作詞:Dorothy Fields、作曲:Jimmy McHugh。1930年作曲。ジャズ・スタンダードとして長く広く演奏・歌唱されてきた曲ですね。

Wikipediaに頼ると、

“ハリー・リッチマン (Harry Richman) とガートルード・ローレンス (Gertrude Lawrence) が主演したブロードウェイのミュージカル『ルー・レスリーのインターナショナル・レビュー (Lew Leslie’s International Revue)』で最初に紹介された。”

(出典:Wikipedia > 明るい表通りで

とあります。

ルー・レスリーはブロードウェイ・シアターの作家・プロデューサーだそうです。最初からいきなり作家・プロデューサーというのも否定できませんが、彼自身も最初はシアター関係のいち演者だったのか?

『On The Sunny Side Of The Street』が最初に紹介されたというミュージカル『ルー・レスリーのインターナショナル・レビュー』とはどんなものだったのでしょう。実在の人物の名前(ルー・レスリー)がタイトルに入っているし、彼の“インターナショナル・レビュー”なんだそうです。一体何をレビューするのでしょう。何がインターナショナルなのか。「各国の作品を紹介する」という「音楽劇」だったのでしょうか? 注目すべき優れた楽曲や音楽、演者を紹介するメタ的なミュージカルといった具合に。ストーリーのあるミュージカルとは違ったものだったのでしょうか。

だとしたら『On The Sunny Side Of The Street』も、ひょっとしたらミュージカル……というか、「物語」のために書き下ろされたものではないのかもしれません。いい作曲家・作詞家(たとえばドロシー・フィールズとジミー・マクヒュー、ほかにもいろいろ)が現実にいて、そいつらのいい作品をステージをご覧のみなさまに紹介するよ、というのが『ルー・レスリーのインターナショナル・レビュー』というミュージカルだった……いえ、隅から隅まで私の想像に過ぎないので、この作品についての正確な事実が知りたい方には他をあたっていただくよりありません。

『ルー・レスリーのインターナショナル・レビュー』というミュージカルがそもそも「お話」(前後関係のある架空のストーリー)に比重があるものではないのなら、お話のスジや登場するモチーフを題材に作曲することもないのでは? と想像しますが、もちろん現実の華やかなブロードウェイ・シアターという存在そのものだって、いくらでも作曲の動機になるとは思います。

あるいは、現実に存在する「ルー・レスリー」という人格や現実どおりのシチュエーションをそっくりそのまま舞台設定に用いた寸劇のようなミュージカル作品が『ルー・レスリーのインターナショナル・レビュー』だったのかもしれません。いつの時代も、そういう、つくり話半分・現実半分の娯楽作品ってありますよね。メタフィクションとでもいうのでしょうか。

後記

ここまですべて、Wikipediaから読めたわずかな情報のみによる「想像」をお話ししました。つまり、「何がどうわからないか」を述べただけの文章です。付き合ってくださってありがとうございます。真実やいかに…。

ジャズ・スタンダードはそういう曲の出自や有名になるまでの過程が、「スタンダード」と広く認められる時点で複雑になっていることがそもそも魅力のひとつかもしれません。いろんなところでいろんな人が歌っているけれど、この曲ってそもそも……という興味が人びとをよりひきつけるのです。もちろんそれはその曲にそれだけの器量があったことの証明にもなっています。

こまかい音符のひとつひとつまでもが正確にコピーされて伝わるものとも違います。演奏者それぞれの『On The Sunny Side Of The Street(明るい表通りで)』があるにも関わらず、そのいずれもが確かに『On The Sunny Side Of The Street(明るい表通りで)』なのです。なんだか哲学の問題みたいですね。「私のからだを部分的に少しずつ別のものに入れ替えていったとき、果たしてどこまで入れ替えたときに私は“元の私”と別人だといえるのか?」という問いにも似ています。人々に、「これも確かに『On The Sunny Side Of The Street(明るい表通りで)』だぜ」と言ってもらえるうちは、確かに『On The Sunny Side Of The Street(明るい表通りで)』なのでしょう。それって要は、「その人がそれを何と認知するかを決めるだけ」の話? なんならもう『On The Sunny Side Of The Street(明るい表通りで)』じゃなくてもいいじゃないか……と、話が崩壊しかかったところでこのへんで。表通りに散歩にでも行ってきます。

青沼詩郎

バンバンバザール 公式サイトへのリンク

バンバンバザール『明るい表通りで』収録アルバム

私に『明るい表通りで(On The Sunny Side Of The Street)』への興味を拓いてくれたきっかけ、バンバンバザールにも複数の音源発表があります。彼らも思い入れのある曲なのかもしれません。

『Suge Ban Ba!!』(2001)こじんまりした編成のイントロからごきげんなバンドがはじまります。

『リサイクル』(1994)。“実況録音”形式のファースト・アルバム。

『十』(2005)。オープニングのピアノの1音になんとなくスコット・ジョプリン『ジ・エンターテイナー』を思い出します。

カウント・ベイシー『On The Sunny Side Of The Street』収録作

『Kansas City 3 – For The Second Time』(1975)。リンクを貼った音源の出典元のアルバムです。

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『明るい表通りで ギター弾き語り』)