認知度おばけの童謡・愛唱歌

大きな古時計』は気付いたら知っていた歌。私が小学生のときに使っていた、ハンディサイズの歌本『歌はともだち』(教育芸術社)にも載っていた。

後年になって、平井堅がこの曲を発表した。編曲が亀田誠治だとこれを書きながら知った。「後年」とは2002年だというのも今あらためて認識する。当時私は16歳、高校一年生だった。だから、さすがにはじめて『大きな古時計』を平井堅で知った輩ではない。私が物心ついたとき、すでに童謡、愛唱歌として広く浸透していた。

ヘンリー・クレイ・ワークによる原曲My Grandfather’s Clock』のエピソード


『大きな古時計』の原曲『My Grandfather’s Clock』の作詞・作曲者はヘンリー・クレイ・ワーク。1876年に作曲された。彼が訪れたイギリスのジョージ・ホテルで、そこの主人から聞いた話が作曲の動機になったという。

当時のジョージ・ホテルはジェンキンズ兄弟の所有。その兄弟の誕生時に購入したものが大きな古時計のモデルの時計。ロング・ケース・クロックと形容されるという。大きな箱形の時計だったのだろう。

ジェンキンズ弟は、先に亡くなってしまう。それまで、ホテルを訪れる者たちの往来時刻のあてにされるほどに正確な時計だったのに、ジェンキンズ弟の死から時計が遅れ出す。

そしてジェンキンズ兄が亡くなったときに、ついに時計は止まってしまう。11時5分を指して、止まったままになった。その時刻は、ちょうどジェンキンズ兄が他界した時刻と重なるらしい。

1876年頃のジョージ・ホテルの主人が、ヘンリー・クレイ・ワークにそんな話をしたことが『My Grandfather’s Clock』の作曲につながったとのことだ。

参考:世界の民謡・童謡

曲について

歌は、大事な音域はほとんど1オクターヴ内におさまっている。4分音符や8分音符を主にした「タータタ」のリズムが印象的。“いまは もう うごかない” のあたりの休符の入れ方が、時計が力尽きる刹那を表現しているように思える。歌いやすいGメージャー調で親しんだ人は多いかもしれない。

原曲の『My Grandfather’s Clock』はところどころ符割りが細かい部分がある模様。Tom RoushがパフォーマンスするものをYouTubeに見つけた。

【原曲について】

作詞・作曲:Henry Clay Work (1876)

【みんなのうた】

訳詞:保富 康午、編曲:小林秀雄。1962年に立川清登、1973年に立川清登、長門美保歌劇団児童合唱部が歌った。

平井堅『大きな古時計』を聴く

メロトロンのようなアナログのフルート系のトーンが懐かしさ、経年変化を表現する。アコースティック・ギターの響きがやさしい。平井堅の歌声は絹の質感。やわらかいタッチで聴く者の耳を愛撫する。時計の機構を想像させる音がリズミカルに協調し、主題を演出する。中盤から高解像度な打ち込みのリズム・ベーシックが入り、平井堅のバックグラウンド・ボーカル(英語も出る)も華やかになるがまた熱量をオトし、そしてまたあげる。メリハリの演出への作り手の視線は現代ポップのそれだ。コンパクトに歌われる童謡のイメージだけど、まる5分間に近いサイズ感や時間を忘れて魅せられてしまった。

平井堅『大きな古時計 (Ken’s Bar version)』

濁りと音のぶつかりが清らかさと融合した美しいピアノは矢野顕子。その響きに私の好きな曲『ひとつだけ』を思い出す。人間や楽器のフィジカルのみの空気を捉えた妙演。時計の止まったあとの未来を想起させるエンディングの和音に静かな感動を覚える。

エヴァリー・ブラザーズの演奏

The Everly Brothers『Both Sides of an Evening』収録『My Grandfather’s Clock』。ごきげんで軽快。リゾートっぽい豊潤なリバーブ(残響)は天国っぽくもある。エンディングは時計が鼓動を遅めてズコっと逝ってしまう瞬間を表現したかのようでややコミカルな趣きも感じる。

青沼詩郎

参考Wikipedia>大きな古時計

立川清登(澄人)が歌った『大きな古時計』(1973年版)を収録したアルバム『NHK みんなのうた 50 アニバーサリー・ベスト ~おしりかじり虫~

『大きな古時計』をトリに据えた平井堅のアルバム『LIFE is…』(2003)

『大きな古時計』の独創的なピアノと歌のみのテイクを堪能できる平井堅のカバー・アルバム『Ken’s Bar』(2003)

『Ken Hirai 10th Anniversary Complete Single Collection ’95-’05 歌バカ』(2005)。『大きな古時計』ほか、ならんだ平井堅のヒット曲に彼の活躍をあらためて覚える。

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより

"144年も前にヘンリー・クレイ・ワークが書いた原曲。「おじいさん」どころかおじいさんのおじいさんのおじいさんくらいかも? 「おじいさん」のモデルの人物が旅立った時刻を指して時計は止まったという。「みんなのうた」(1962、1973)の保富康午の訳詞が私が認知しているもの。このときの編曲は小林秀雄。"
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