私には中学生のときに弾き語りデュオを組んでいた友人がいる。彼はそのときからバイクに関心があった。それから私も彼も高校へ進学して別々の高校になった。付き合いは続いていて、彼は念願のバイクとその免許を手に入れた。うらやましいなと思った。

盗んだバイクで走り出す(尾崎豊『15の夜』より)

中学生のときの私は生徒会長をやった。それから、私曰く「勉強ができる人が集まる高校」に推薦で入学してしまった私は、勉強する習慣を築くこと、バイクを盗むこと、それで走り出すことのいずれもなく、音楽棟会議室と名付けられた無機質で冷たく乾いた広い部屋でひたすらギターを弾いたりドラムを叩いたりした。その頃はHi-STANDARDのコピーをよくやった。大事なバンド友達も、高校に入学して軽音楽同好会に入ったことでできた。

尾崎豊を、34歳の私がいま聴いている。彼のファーストアルバム『十七歳の地図』(1983)。タイトルにうたわれた「十七歳」より、倍も歳をとってしまった私。『15の夜』もこれに収録されている。

尾崎豊の生年月日は1965年11月29日。このアルバムに収録される曲のレコーディングが始まったのが、1983年7月30日。彼は17歳だった。アルバムのリリース時(同年12月1日)には尾崎豊は18歳だったことになる。

17歳から18歳になる頃の私は何をしていたか思う。高校2年生の夏、音大に進学することを決めて受験のための準備をしていた。ピアノや声楽の実技、楽典などの勉強だ。英語のセンター試験も必要だったから、その勉強もぬるくやった。でも、ずっとあの冷たく広い部屋でギターとドラムを鳴らす日々は相変わらずだった。

私がやりたいのはクラシックの音楽ではなかった。だけれども、必須の素養だと考え、音大のクラシック中心に学ぶ学部・学科・専攻の受験に向けて日々を過ごした。カセットの4トラック多重録音機と私が出会ったのもこの時期だった。

そうやって、「将来の準備」みたいなことを私がちくちくやっている頃にあたる時期、尾崎豊は『17歳の地図』をプロの現場で録っていたのだ。

およそ私が物心つくころ、尾崎豊は亡くなった。私の生年月日は1986年5月14日。尾崎豊が亡くなったのが1992年4月25日。私は5歳だった。まだ、社会においていかに尾崎豊が扱われていたかも知らなかった。訃報をメディアが私の目に触れるところに報じたかもしれないが、私がそれを認知した記憶はない。亡くなってしまったことで注目度が高まったというのもあるだろう。私が、ものごとや社会のことを認知するようになって、その記憶をいくらか持っている段階になったとき、すでに尾崎豊は「亡くなったのちも大きな影響を与え続けているアーティスト」の扱いだった。

小学生の私が初めて買ったシングルはブラックビスケッツの『スタミナ』だった。初めて買ったアルバムはJUDY AND MARYの『POP LIFE』だった。小学生の私は鈴木亜美のファンで、シングルやアルバムの発売を追っていた。習い事のピアノの練習は好きじゃなかったけれど、音楽そのものは好きだった。休日に父親に釣りに連れて行ってもらうのが楽しみで、住んでいるマンションの敷地内で同じマンションの年が近い友達と毎日「カンケリ」の代替「マンホール踏み」をして遊んだ少年だった。それから中学に入って、バイクに関心を持ったギター友達の彼と出会うことになる。こうした過程で、尾崎豊の存在は認知しつつも、その音楽や人柄に深く立ち入ることはなかったのが私だ。青っ洟たれだった。

尾崎豊のアルバム『十七歳の地図』。音楽性の広がりを予感させつつも、非常によくまとまっている。このあたりはプロデューサー・須藤晃の手腕か。それでいて、濁ったり淀んだりする練馬や朝霞の空気のずっと向こうを真っすぐに見つめているかのよう。尾崎豊にだけ見える何かに向かって。

尾崎豊の音楽は、平和に浸かったこれまでの私の青っ洟人生とは交わりが少なかった。34歳になった最近の私は、いろんな人の音楽に触れ、その数多の人生を思う。倍も歳を食った中年が、十七歳の若者の歌とようやくちゃんと出会った今日からおよそ37年前のこの時期、ちょうどその作品のレコーディングが走り出したところだったのだ。生きていれば、尾崎豊は54歳。26歳で亡くなったその人生の倍くらいの時間があったら、彼は何をやっただろう。それこそ、34歳の頃には何を? …ぞっとする。私は未だに青っ洟たれである。

青沼詩郎

尾崎豊
https://www.ozakiyutaka.jp/

尾崎豊(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E5%B4%8E%E8%B1%8A

十七歳の地図(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E4%B8%83%E6%AD%B3%E3%81%AE%E5%9C%B0%E5%9B%B3_(%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0)