ことばが浮いてそうな昼の空。

学生の時にレコード会社主催のオーディションを受けて入賞したことがあった。そのときに、私が将来関わるかもしれない人として、そのオーディションを担当していたディレクターから業界の人の名前をいくつか教えてもらった。その中に、宮川弾の名前があった。それで、彼に関わるCDを池袋のP’パルコのタワレコで探して、何枚か買ってきた。その中の一枚が、『Niagara AUTUMN&WINTER~Niagara Cover Special~』だった。

大滝詠一のカバー集だ。宮川弾はしおねとだん(湯川潮音&宮川弾)名義で『木の葉のスケッチ』をカバー(参考:タワーレコードオンライン>第3回 ─ Niagaraカヴァー第3弾発売記念! 湯川潮音×宮川弾×堂島孝平の3者会談!!)

そのカバーアルバムの中に、ひときわ心をひく演奏があった。ビューティフル・ハミングバードによる『スピーチ・バルーン』だった(ここまで話しておいて、今回は宮川・湯川両氏や『木の葉のスケッチ』の話でなくて申し訳ない)。

ギターと歌のみの、澄み渡る音。曲の良さがまっすぐに伝わってきた。それまで大滝詠一の作品をちゃんと知らなかった(テレビなどで時折耳にしていることには、あとから気付く)私に、ビューティフル・ハミングバードは、その世界を手渡してくれた。大滝詠一はもちろん、ビューティフル・ハミングバードのことも好きになった。

“言いそびれて 白抜きの言葉が 風に舞うよ”(『スピーチ・バルーン』より、作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一)

白抜きの言葉ってなんだろう。ずっと私に引っかかって留まった。このときは知らなかったけれど、スピーチ・バルーンは漫画のフキダシのことらしい。言葉をあらわす記号としての「文字」がばらばらになって、景色に力なく散っていく。

その部分のコード進行も私にとって新しいものだった。主調に対して、Ⅶ♭マイナーでBパートに進行する…なんて言い方をするとわかりにくい。仮に曲の調がCメージャーだとする。AパートのおしりでCの和音に解決したあと、BパートのアタマがB♭マイナーだという関係になる。これはC調にとってⅥ♭調にあたるA♭調に突入する動き。ドミナントを経由して、実際そのように進行する。

〜C(ここまでAパート)|B♭m E♭|B♭m E♭|A♭|Fm|Cm F|Cm F|B♭|G|→そして元の主調の主和音へ帰る(ここではC)

そう、転々と旅をして、見事にもとの主調に帰着する。

これに対してAパートは非常に滑らかで、バスが順次下行するいわゆる「カノン進行」に近いもの。AパートとBパートに対立の構造をみる。それぞれが際立つ。Aでは、ふわふわと「ことだま」が散歩する。Bパートでは、それがほどけてくずれて、自我が環境に溶けていくみたいだ。

原曲は大滝詠一の『A LONG VACATION』収録。ご本人はGメージャーで歌っている。

【追記】2021年3月21日、「ロンバケ」40周年に合わせてサブスクリプション視聴もついに解禁。こちらの記事(文春オンライン>サブスク解禁の大瀧詠一 “ラブジェネ”主題歌「幸せな結末」はなぜヒットしたのか?)が参考になるし面白かった。大瀧詠一がいかに私にとって音楽の道標(みちしるべ)かを改めて実感。

青沼詩郎

ご笑覧ください 拙演