The Flaming Lipsを知ったのは、バンドをやっている友達から教えてもらったからだ。

Race For The Prize』がいい曲だよと入れ知恵してもらった。

その場ですぐに聴いた。気に入った。

で、アルバムなどをいくらか検索して聴いてみたりもした。

やはり唸ったし、すごいと思ったけど、そのときはほどほどにしていた。

いま思うと、あのときの「いま深追いしなくていい」と思った感覚は、The Flaming Lipsと私の関わり(私からの一方的なものにせよ)がその時かぎりで終わらない気がしたから、だったのかもしれない。

包まれて『Race For The Prize』

ツイッターを表示させたスマホの画面を指でこすっていたら、なんとも素敵な動画に出会った。

https://youtu.be/YUCzn_eMFF4

当のThe Flaming Lipsが『Race For The Prize』を演奏している、比較的最近のものと思われる映像。

しかもなにか、みんな「ふわふわぽよぽよ」したものに包まれている(なんと形容・呼称すべきか。しばらくしてからこれを「バルーン」と呼べばいいことに気付いたが、しばらく私は心の中でこれを「ふわぽよ」と呼んだ)。

そう、風船みたいな、ビニールドームみたいな、透明な球体にメンバーが入ってステージで演奏している。お客さんも一人ずつが、これに入って包まれて、飛んだり跳ねたりして観ている。嬉々として見える。興奮で酸欠にならないか。

ふたりのドラマーだけは、ふたりでひとつの風船に入っている様子だ。マスクをつけている。ドラマーこそ、パワフルに1曲を叩きつづけて酸欠にならないか。余計な心配か。

インパクトの強い映像に引き込まれた。

発表からだいぶ時間が経っているレパートリーだけど、ずっと生きたまま扱われている。

『Flowers of Neptune 6』

The Flaming Lipsを知っている人は、その名から『Race For The Prize』を思い浮かべる人は多いかもしれない。

さらに検索していたら、新曲と思われるシングルに出会った。『Flowers of Neptune 6』だ。

この曲も、素敵な動画がある。2020/05/28公開とある。Cool.

コード

なんともメランコリックでもどかしいのは、長短のセブンスの響きからか。

オープニング、ヴァースは|Em7|(Em7)|DM7|(DM7)|的なコード進行。曲のキーはDと思うことにする。

コーラスはふたつの部分に分けて、前半で{|D|DM7|D6|(D6)|}×2

後半で{|G|(G)|D|(D)|Bm|(Bm)|D|(D)|}みたいな進行(ざっくり)。

ベース

サビ後の間奏で、オープニング/ヴァースのコード進行に戻る。ベースが8分音符で「ミミファ♯ファ♯ソソララシシド♯ド♯レレミミファ♯・・・」と完璧な順次進行の上行音形をみせる。これが、後半の4小節で、「ミミレレド♯ド♯シシララソソファ♯ファ♯ミミレ・・・」と帰ってくる。

上行音形からは浮上、飛行。下降音形からは潜航、着地といった概念を思う。

ドラムス

ドラムサウンドがチャーミングで、タムに(最近滅多に聴いた覚えがないほどの)ウェットな残響がついている。キック・ハット・スネアはドライな感じ。期待する役割に沿って、音作りを分けている。丁寧な仕事に感銘を受ける。

また、その丁寧な仕事にかかるタムのフレーズが、私の記憶にある名曲を誘う。でも、具体的にどれかの曲を思い出せるわけでもなく、漫然と匂わすところがセブンス系コードのもどかしさと相まってたまらない。勝手に猛烈な郷愁と、誰に寄せるでもない哀悼のようなものを感じる。

ボーカルのメロディは、和声音の順次進行や小さな跳躍を基に、ところどころテンションノートや大きめの跳躍を用いている。音形の反復や、上行と下降の切り返しが非常に美しい。

歌詞

タイトルにある「Neptune 6」ってなんだろう。たぶん、軍艦か燃料タンカーみたいなもののことだと思う。歌詞に、戦争「war」という単語がある。John,Tommy,Jamesといった固有名詞が登場する。彼らは、どうやら船の機関士みたいなものだったり、戦争に行ってしまった者だったり、なんらかの所以で捕らえられたりした者のようなのだ。どうしたものか。“Oh,my God”というやり場のない嘆きのようなフレーズが、ボーカルウェイン・コインのしわがれた魅力的な声で紡がれる。

Wikipediaで見たら、船としての「Neptune」はイギリスの船だとあるが、MVでウェイン・コインはアメリカ国旗を身体にまとわせている。火のついた野原を歩く彼。

例の『Race For The Prize』のライブ映像でも出てきたバルーンに入って歩いていく彼を遠くからとらえたものと、表情がわかる距離で歌う彼をとらえたカットが何度もスイッチする編集になっている。映像のなかで、日が暮れたり夜になったりと時間も経過する。

焼け野原。アメリカ国旗。「細胞」や「個」を思わせる、バルーン。それに入って途方もなく歩く。国旗を振り回してみせる。私は見入って、なんども再生を繰り返し、曲に触れた。

後記

The Flaming Lipsの音楽上の形式は、特別で固有なものではないはずだ。楽器を持って、バンドやろうぜ!と言ってガチャっと鳴らしたそれっぽいことは多くの人が楽しむことができる。それなのに、The Flaming Lipsはすごくスペシャルだ。媒体がバンドというありふれた形式だっただけなのだろう。中身が特別なのだ。

The Flaming Lipsが繰り出す表現、彼らの視線は、いたるところにいるかもしれない未来のリスナーを向いているように思う。私は非・英語ネイティブだけど、音楽に宿る思念を感じとる。それはとてつもない奥行きや叙情を持って私に迫る。架空の真実の物語を感じている。

青沼詩郎

The Flaming Lips
https://www.flaminglips.com/

The Flaming Lips / ザ・フレーミング・リップス | Warner Music Japan
https://wmg.jp/theflaminglips/

『Flowers of Neptune 6』を収録したアルバム『American Head』(2020)

『Race For The Prize』を収録したアルバム『The Soft Bulletin』(オリジナル発売:1999年)