日々新しい音楽を聴く、聴く、聴く。ざっくり聴いて、細部も聴く。コピーして、自分でも演奏に挑戦してみる。

ときに立ち止まり、息が切れる。

ふと振り返る音楽がある。

いくつもはないけれど、確かにある。

そういうもののひとつが奥田民生の音楽であり、曲でいえばたとえば『さすらい』。

この曲のイントロがバーンと鳴ると私はうれしくなる。

びびっと脳波の麻薬がくる。

エアーで鳴らなくてもいい。脳内にいつでも再生できる。

この曲のアタマのコードはEメージャーなのだけど、Eメージャーの響きを思い出したいときにまず思い出して参照するのが『さすらい』なくらいだ。

(ちなみにGメージャーの響きを思い出したいときはウルフルズ『バンザイ〜好きでよかった〜』など、私の「絶対音思い出しキーソング」は種々ある。)

旅、放浪、自由、奇遇、孤独、気まぐれ、空想。3分ちょっとほどの収録時間に「さすらい」の観念のハイライトがつまったような曲。

サビの折り返しあたりにまじるⅦ♭(この曲ではD)コードだとか間奏でのⅤm(この曲ではBm)だとか分数コードだとか、シンプルな中にも奥田スパイス香るコードがまじる。そこでのハーモニックなツイン?ギターも吉兆。

平歌では4/4に3/4の変拍子が交じるように感じる仕掛けがしてある(あれね! とあなたも頭に浮かぶ?)。

大好きな曲だけど、歌の音程が高くて私にはハードルが高い印象もある(ちょっとキーを下げてもなお)。平歌からすごい高い音程への大きい跳躍音程がある。これが難しい。

コンパクトな曲故か、平歌から豊かで起伏に富んだ変化がある。聴かせる。

私の中でランドマークのようなコンパスのような存在感の曲。ふとしたときに思い出し、参照し、ものの基準をはかり、今の自分の価値観やその変遷を確かめる。その上でずっと好きな曲だ。

憧れ、自分でもやりたくなるんだけど、なかなか自分が及ばない。空ゆく雲のように軽やかで、気ままで、近いような遠いような。でもいつもどこか視界のうちにこの曲があるんだな。

青沼詩郎

『さすらい』を収録した奥田民生のアルバム『股旅』(1998)

ご笑覧ください 拙カバー

青沼詩郎Facebookより
“新しい音楽に冒険しては口直しにこの曲。Eメージャーコードの響きを思い出すときの基準にもこの曲。朝起きる、夜寝る、お風呂に出入りする、自転車に乗り降りする、飯の前後・最中、あらゆるときにこの曲。理想も現実もとにかくこの曲が私の標準。そしてボーカルの難易度高い…憧れも含めて。奥田民生『さすらい』カバー”