私はいずみたくファン。歌謡曲をたくさん載せた歌本を見ていると、彼の作品にたくさん出会えます。あれもこれも、それもいずみたくなの?! と言いたくなるほど彼は多作で、そのひとつひとつで私の心を揺さぶります。

世界は二人のために』もその1曲。私の手持ちの歌本に載っていて、ふんふんと鼻歌で音をとってみると、なんかいい感じ。音形の反復がきれいで、覚えやすいのです。“愛” “花” “恋” “夢” などと、2音で発音する単語を強拍に置いて印象づけています。

この曲、そのうち自分でも弾き語りしてみようと思いつつも一度、寝かせていました。

シン・エヴァンゲリオン劇場版に『世界は二人のために』

加入しているAmazon Primeで何気なく『シン・エヴァンゲリオン劇場版 冒頭12分10秒10コマ』を見ていたら、どうも覚えのあるメロディが聴こえてきます。登場人物が口ずさんでいる……という演出。あ、この曲知っている…えーっとアレアレ……そう、『世界は二人のために』です。劇中では緊迫したシーン。このロマンあるきれいなメロディがミスマッチに響きます。その不自然さは作為でしょう。

ところでエヴァンゲリオンといえばこの人、庵野秀明氏はかなりヘンな人だというのを、安野モヨコのエッセイ漫画を読んでしみじみと思います(尊敬や親近感の意味で私は「ヘンな人」といっています)。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版 冒頭12分10秒10コマ』ではエヴァと使徒が戦ったり、構成員が緊迫して使命に臨んだりしているのに、ある意味「呑気な鼻歌」が並行するのです。視聴者はどこに自分の心をポジションさせて良いのやら、居心地の定まらない感じです。

混沌。関係の薄いもの同士や、脈絡のないものが交雑している感じ。頭の中のごちゃつき。とりとめのない雑念のつらなり。記憶の中にサスペンドしたあれやこれやが縦横無尽にピピピと交信してつながったり飛び火したりしている。庵野秀明氏の頭の中では、常にそんなことが起き、映像と音声が展開しているのではないかと思うのです。『シン・エヴァンゲリオン劇場版 冒頭12分10秒10コマ』を見た私にそんなことを思わせる漫画が、安野モヨコの『監督不行届』なのです。

もちろん「シン・エヴァ」には庵野氏以外のたくさんの人の叡智や手技・手腕が結集されていることと思います。エヴァという概念、その広がり。それが今日ではたくさんの人を巻き添えにして、日々あちらこちらで思考の進展を生んでいるのではないでしょうか。

世界は二人のために 曲について

佐良直美のシングル曲(1967)。作詞:山上路夫、作曲:いずみたく

原曲リスニング・メモ

左にアコースティック・ギター、右にクリーンなオブリガード・ギター。ドラムスも右に振ってありますね。ベースは左。Bメロでボーカルがユニゾンでダブリング。2コーラス目でフルートが入って来ます。ハーモニックなオブリガードでささえ、ときおりリズム感を出した打点でハーモニーします。

2コーラス目のあとに間奏でエレクトリック・ギターがメロディを奏でます。ギターとフルートのかけあいです。そこからストリングスも聴こえますね。

3コーラス目でストリングスが艶やかに歌いはじめます。Bメロで2コーラス目まではユニゾンだったボーカルはハモりに変わります。フルートもさりげなく和声をささえます。華やかな音像になってきました。

役者が揃ったといった感じでそのまま4コーラス目へ。最後はBメロを反復します。

だんだんと豊かになり編成が円熟していくアレンジ。最後はフェード・アウトです。

表面のハリと中心にコシのある佐良直美の歌唱。意思を感じる声質ですね。

曲中の声域は1オクターブ+4度。G♭メージャー調で歌っています。固定ドでファ〜オクターブ超えてシ♭。男声ならCメージャーでほどよく歌えるのではないでしょうか。

Aメロは低く、Bメロでパーンと上まで音域をつかうメリハリのある歌メロ。

Aメロでは3度程度までの距離の跳躍と順次進行を基調にして穏やかに。

Bメロでは一気にポジションを高め、距離を広げた4度の跳躍がです。

“二人のため 世界はあるの”(『世界は二人のために』より、作詞:山上路夫、作曲:いずみたく)

2拍3連のリズムでこの4度跳躍を歌っていますね。♪ふーた「りーのーたー」めー。カッコ内太字部「りーのーたー」が2拍3連。特徴あるメロディです。これに近い音形を2度下げて反復します。

“二人のため 世界はあるの” との言葉の意味を取り出して味わってみると、なかなか極端です。恋愛中の二人はまさに盲目。世界のすべてが自分たちの脇役に思えるかもしれません。それもまた真実。真実は人の数だけあるのだと、ある推理漫画の登場人物の誰かが言っていたのを思い出しました(作品は田村由美の『ミステリと言う勿れ』だったかしら)。

「没入」を共通の主題と仮定すると、なんとなくエヴァンゲリオンに『世界は二人のために』が使われたのもわかる気がします。

青沼詩郎

堂々としていて、かつ軽やかで華やか。姿勢もきれいで表情は柔和。見習いたい歌手です。

『世界は二人のために』を収録した『ゴールデン☆ベスト~忘れ得ぬ名唱・佐良直美~』。このブログで取り上げたことのある『夜明けのうた』も収録しており、素晴らしい歌唱です。

庵野秀明をモデルにしたキャラクターが可笑しい安野モヨコの漫画『監督不行届』

ご笑覧ください 拙演