バンドに入れる各楽器を、自分一人で順番に演奏して全パート録っていく。多重録音を用いたひとりバンド制作スタイルで私はかれこれ2004年くらいから曲をつくっている。

この国でその制作スタイルの主要なひとりが奥田民生だと思う。彼は私の最たる憧れだ。

昨日も何気なく、加入している音楽のサブスクリプションサービスで彼の名前を検索してみた。同じタイミングで聴いた『風は西から』が良かったから。それが収録されたアルバム『O.T. Come Home』ほかを聴いてみようかと思いながら検索したのだ。

ずらりと並んだ、彼の作品たち。サブスクリプションサービスがすべてを網羅しているわけではなく、しばしば探しても聴けないものや、何かの権利関係の問題があるのかグレー表示になっているものもある。

スーっとリストを下ってみると、際立ったジャケット絵があった。

一人の男性が描かれている。正方形に大きく、寄りで。描き込み、線が力強い。よく見るとその表現の本質は漫画のタッチに思える。

なんだか見たことのある画風だと思うのと同時に、ご覧いただいてわかるように画像の下のほうに小さくクレジットが入っている。「雨瀬シオリ」。私の知っている作者名だった。

『ここは今から倫理です。』という作品の単行本を私は揃えて持っている(続刊中)。雨瀬シオリの作品だ。倫理を教える教師と生徒たちの物語。本屋で一巻を見かけてタイトルが気になって、ジャケ買いならぬ「表紙買い」をして以来、新巻を買っている。

話を戻すと、先程の絵に描かれた男性はヘッドギアのようなものをしている。雨瀬シオリが『ここは今から倫理です。』以前に連載を開始した、ラグビーを題材にした漫画『ALL OUT!!』。

この漫画がアニメになった。その主題歌(エンディング)にスキマスイッチ『全力少年』が使われた。

知名度ある曲だと思う。コード進行とメロディが爆発している。ボーカル曲のお手本にしたい、爽快で印象に残る曲。

こちらは、かつてから私が知っていたオリジナルの『全力少年』とアレンジが違う。奥田民生プロデュースなのだ。冒頭の話に戻るけれど、「奥田民生」検索でヒットしたのだ。

知っていた曲なのに全然違う。一聴して、奥田囃子全開である。絶対これ、奥田さんの多重録音サウンドでしょ。私は自分の推察を押しつける。エレクトリック・ピアノはスキマスイッチの常田真太郎の演奏だろう。奥田民生サウンドと妙コンビ。

ハーフブリッジミュートのエイト・ビートの押し出しに感じる奥田民生感。歌い出しの声を奥田民生と聴きまがうほど。イヤイヤ、大橋卓弥でしょう、スキマスイッチのボーカルは。そう、聴き進めばすぐにちゃんと大橋卓弥だとわかる。でも、歌い出しには奥田民生ソウルが明らかに宿っている。ソウルかゴスペルかロックかブルースか知らんが、プロデュースのチカラってすごい。

コードワークは再考(リハーモナイズド)されていて原曲と違いがある。奥田ナイズドとでも呼ぼうか。コードにも人格って出るのだ。

ドンカンドンカンいってる実直なドラムスはもちろん(?)奥田民生が演奏したものだろう。映像でその様子がうかがえる。Aメロパターンの3拍目ウラで鳴るスプラッシュシンバルが印象的なエフェクトになっている。

サビのオルガンサウンドも奥田アンサンブルと共鳴。歌がノリにノっている。

心が動きまくって、私は夜中に洗濯物を干しながら延々とリピートして聴きいた。心なしか、湿った衣類を扱う手もよく動いた。

青沼詩郎

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