「コードをひねくりまわしてね、途中むっちゃややこしいコードが」「メロディも歌うのむつかしいねんなぁ」

とは、彼が出演するラジオ『Got You OSAKA』(FM COCOLO)11/8の放送でのトータス松本の弁。ウルフルズの楽曲『なんでなん』をラジオで流したのは、この時が初めてだったという。この曲を、トータス松本本人も「久しぶりに聴いた」とも。

ウルフルズが好きで、私が音楽について発信していたり、コード進行が大好物だったりすることを知っているMさんがこの放送でのこの発言のことを教えてくれた。その発信元のラジオを私も確認してみた。番組で積極的にリスナー投稿をトータス松本が紹介していて、選ばれた人はそうした交流が嬉しいだろうと思ったし、何気ない世間の話題も交じって楽しく聴けた。

そして何より私は『なんでなん』をとても気に入った。

『なんでなん』

『なんでなん』はウルフルズのアルバム『人生』(2017)に収録されている。作詞・作曲:トータス松本。2018年2月にギター担当のウルフルケイスケがウルフルズでの活動休止を発表しているので、オリジナルメンバー4人が参加しているものとしてはこのアルバムが最新作である。

コード進行

キーはGメージャー。コード進行は、AメロはG→Am→D7。サビがG→C→D7と非常にシンプル。冒頭に掲げて紹介した「ひねくりまわし」はどこにあるのか。

Bメロコード進行のひねり

|C|Cm/E♭ D|G|F#|Bm|E|Em|A|D|D|
Bメロアタマはこの曲におけるサブドミナントコードのCからはじまる。分数でマイナー音を低音位で一瞬とりつつ、ドミナントのDを経て主和音(G)に解決。この次のF#がポイント。これは次のBmにつながるドミナントにもとれる。BmはGメージャーにおけるⅢmのコード。Ⅲmはドミナントにもトニックにもなる、ふわっとした、なんともいえないはっきりしない響き。

続いてEに接続する。Bm→Eという動きは、Aメージャー調におけるⅡm→Ⅴに相当する。ドミナント・モーションなどと呼び、Aメージャーへの強い帰結感をもった動き。ここで注意したいのは、もともとの調がGメージャーであること。それなのに「Aメージャー然」とした進行が挿入されていることになる。

そうしてAメージャーに帰結するかと思えばそうでない。Aメージャーへ強く誘う響きのEコードは、なんとマイナーに身をひるがえしてしまう。Emになって、Aに接続する。すると、これはさっき待望した主役感あるAではなく、Dのコードに誘う役どころのAになってしまう。なぜかというと、直前にあるEmコードがDメージャー調のⅡm(サブドミナント・コード)であるために、Emを経てAに進行するとDメージャー調における「Ⅱm→Ⅴ」という「ドミナント・モーション」を感じさせる動きになってしまうからだ。そうして、めでたくDメージャーコードに解決する。…ん? めでたく? なんかおかしいな。

そう。この曲のキーはDじゃない。Gメージャーだったはずだ。

安心しよう。ちゃんと直後のサビのアタマでGにつながっている。

それなのに、そこまでの動きは、Dメージャーへ至る旅のようだった。Dに解決して、見事完結! する感じだった。でも、そのDを最後の最後に、さらに「Gメージャーにとってのドミナント・コード」に読み替えて、元のGメージャー調にもどしてしまうのだ。

だから、馴染みの元のキーに戻ったはずなのに、なぜかちょっと「転調の結果」のような感覚を私にもたらす。Dメージャー調にとってのⅣ度調としてのGメージャーに転調してサビが紡がれたような感じがするのだ。ウーーーーーーー!!! ヒネッてる!!!

青沼詩郎

ウルフルズ 公式サイトへのリンク https://www.ulfuls.com/

『なんでなん』を収録したウルフルズのアルバム『人生』(2017)

ご笑覧ください 拙カバー

青沼詩郎Facebookより

“トータス松本が出演するラジオ『Got You OSAKA』(FM COCOLO)で11/8の放送に使われた『なんでなん』。ウルフルズのアルバム『人生』(2017)収録。この曲をラジオで流したのは初めてだったそう。Gメージャー調なのだけれど、Bメロで和音の借用の連続。調があいまいになり(固有音のⅳにも#がつき)、Dメージャーに落ち着かせたかと思ったらそれをあらためてドミナントに読み替えて元の調(Gメージャー)に戻るのが面白い。「コードをひねくりまわしてね、途中むっちゃややこしいコードが」「メロディも歌うのむつかしいねんなぁ」とは作曲者本人(トータス松本)の弁。60年代マージービートを意識して作ったという。Aメロやサビの進行が素朴〔Ⅰ→(ⅡもしくはⅣ)→Ⅴ〕なので全体的な印象は平易。「むつかしい」「ややこしい」感じがしないのに、さりげなく妙な展開が含ませてあるのが味で粋。ラブソングなのだけれど、もの寂しげ。距離を置いている二人か、あるいは孤独な自分を客観したような歌詞がホロ苦い。その感傷に私は、彼らのデビュー曲『やぶれかぶれ』を思い出す。”

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