100 ワットの恋人 鈴木茂 曲の名義、発表の概要

作詞:松本隆、作曲:鈴木茂。鈴木茂のアルバム『BAND WAGON』(1975)に収録。

鈴木茂 100 ワットの恋人(2025)を聴く

タイトなリズムが鉄人のように硬質です。針で止められ標本にされた昆虫の気分。タツっとサスティンのきれの潔いドラムス。

輪郭が明瞭でにじみを極力抑えたようなベース。ストロークとストロークのあいだに明瞭なセパレーションをもうけていきます。体型が出るピッタリした服でいることが急に恥ずかしくなるくらいにぴっちりタイトです。

寸分の狂いもない。そんな印象をもたらすリズムです。高揚や熱量でなく、感情を排除した仕事人。生き馬の目を抜くような……思った以上にスクウェアで精確な空間づかい。

鈴木茂さん印のギターの音色はもちろん確かな質量で扱われるのですが、リズムの異常なタイトさに私の注意が奪われます。また間奏でこれでもかという音量でピアノが入ってきます。すごいの来た。視界のほとんどを奪っていく猛烈さ。これが100ワットの恋人かよ。エレクトリックピアノも伴っています。ボスに精鋭の配下もついてきた。私はお手上げです。

鈴木さんのダブルのボーカルも理知的な印象。思えば、私がはっぴいえんどのサウンドに感じる、感情を排したモノクロームな印象の決め手になっているのは鈴木さんのボーカルによるところも大きいと思います。

2017バージョンを聴く

2025バージョンを聴いて、この曲、こんな印象だったっけ? と驚き戸惑う私。あたふたと2017バージョンを聴いてみる。

私の記憶のなかにある印象はこっちです。

2017バージョンのほうが各パートの質量感がミッチリしている印象です。ホットなグルーヴに感じるのです。2025バージョンは私には冷徹すぎてコワい。おそろしいのです。ボーカルも2017バージョンのほうが質量感があって地面とつながっている気がします。2025バージョンは、風通しがよすぎてどこかソワソワしてしまう。大海に放り出されて浮かんでいるような気がしました。

100ワットなふたり

“春のウィンドウに映してみたけど 流石にきまった一張羅のスーツ わざと五分も待ち合わせ遅れてった それなのに何故きみは 二十五分もぼくを待たせたの”(『100ワットの恋人』より、作詞:松本隆)

きみは30分も定刻に遅れてきたのですね。なぜ私は5に25を足す計算をしているのやら……なんのための定刻なのか。主人公はなぜ5分、わざと遅れたのか。5分遅れることは、主導権が自分にあることの刻印なのか? あるいは遅れた面目なさで相手にハナを持たせる配慮なのか。今日はオレが遅れたからね、ゴメンよ、君の好きなことをひとつでも多く叶えるよということなのか。

それなのにさらに25分もきみが凌駕してきたのでは……主人公はきみからよっぽどサービスしてもらわにゃ割にあいません。一張羅のスーツ決めたぼくの30分(25分)はきっと高いぜ。

そう、「一張羅」という単語の「いっちょらーのー……」という字脚の扱いがエキセントリック。

“ふたりしみじみと話したかったの きみの早口 マシンガンのようさ ショーケンがどんな素敵かを話しては 頬そめてウットリ ぼくの顔見て我にかえったの”(『100ワットの恋人』より、作詞:松本隆)

どうも主人公ときみはちぐはぐに見えます。「しみじみ」との希望と、早口のマシンガントークは似ても似つかない。おまけにショーケンをそんなに立てられても……ぼくの子供じみた嫉妬をむしろ誘っているのでしょうか。どんなにショーケンが素敵だといっても、あなたには劣るよと拗ねたぼくをなだめるための布石なのか? その前提で、ぼくは素直に拗ねればいいの? ちぐはぐな二人に、私は困惑です。喫茶店の隣席にこんな二人がいたら、聞きたくなくても会話を聞いてしまうね。

“別れる間際ぎわに手渡されたセーター 編んでる内に春になったの そんなふたりが肩寄せて生きてゆく you are my sunshine でもないが きみは明るい100ワット電球さ”(『100ワットの恋人』より、作詞:松本隆)

セーターなんて冬のうちにくれなきゃ……来シーズンまで待てと? やはりちぐはぐな二人だ……この仲はどうなるの? と思いきやそんな二人だからこそ肩を寄せて生きていくのでしょうか。意外なところに落ち着くもんだ。

円満にみえる関係なんておかしいよ。どこかがヘンになっているにちがいない。ちょっとちぐはぐしたり、でこぼこしているからうまくいくもんだ。この二人を見ているとそんな気にさせます。

ユー・アー・マイ・サンシャインなんて大袈裟なのです。家の中にあるありふれた光源みたいな存在がお互いにとってのものであれば、そんなに現実的で適確な関係はないでしょう?

100の数字はぱっと見エキセントリックにもみえますが、ここではありふれた、身の丈にあった生活に即した数字なのかもしれません。また円満の象徴でもあるのが数字の100、かもしれないね。ちぐはぐに見えても、足せば100なんだ。なんだか足し算を最近ほかにもやったばかりな気がするけれど、そんなことはもういいね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>BAND WAGON

参考歌詞サイト 歌ネット>100ワットの恋人

鈴木茂 公式サイトへのリンク

『100ワットの恋人』を収録した鈴木茂のアルバム『BAND WAGON』(オリジナル発売年:1975)。2025年3月25日に50周年盤が出ています。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『100 ワットの恋人(鈴木茂の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)