音速と抵抗

「ジョナサン」の固有名詞が突き刺さる歌い出し。リチャード・バックの文学作品『カモメのジョナサン』をモチーフにしているといいます。

音楽と出会った衝動。そのカルチャーショックが己の身に起こった瞬間。それらは永続し、現在過去未来が融合した観念であることを思わせるのが、最後段の部分での、擬人化したレコードプレイヤーの語りかけです。再生機のスイッチを入れれば、いつでもその衝動の瞬間にしてやるぜ、といいます。その衝動の瞬間の象徴が十四才なのだと思います。

サウンドにはそこはかとなくThe Who感を感じます。まっすぐなビート、一糸乱れぬシンプルな和音進行が「ジョナサン」の飛行のスピードを思わせますが、歌詞に取り入れられる「きりもみ」の観念には、空気抵抗や摩擦、気流の乱れを想起します。スピード感とそこに作用する抵抗の対立がロックであり衝動なのかもしれません。

十四才 THE HIGH-LOWS 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:甲本ヒロト。THE HIGH-LOWSのシングル、アルバム『HOTEL TIKI-POTO』(2001)に収録。

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これは凄い。ライブバンドとしての魅力をパックして思える上に、録音作品としても溢れる愛、言語、音楽という表現形式を超越した向こう側を感じます。

シェイプされた音色のエレキギターがみゃみゃみゃみゃ……と8ビートを刻みます。このフレーズと相似するフレーズを、ピアノの音色がトレースします。このピアノがまるで「音速の壁」をこんこんと叩いているみたいなのですよね。

まっしぐらに、たんぱくに、フラット(平静)な様子で8ビートを並べるエレキギターに、のびやかに太い質量のある音色で、ベースが白い長い音符を置いていきます。重音、複数の弦で和音をベースが出します。ジョナサンとその同胞のいくつかが一緒に空を滑空しているのかな。きゅうん、きゅうん、……と、なんの楽器で生じさせた音なのか、かもめだかウミネコだか、海鳥の類が鳴くみたいな音色がたびたびステレオを交います。

ドラムスはキック四つ打ちの恒常なフィールで支えます。エンディングなどでは豪快に2小節パターンでひたすらに豪快なフィルインを入れ続け、トライ・アンド・エラーの一生じゃ足りない人生を思わせます。

リードトーンのエレキギターは際立って鋭い音色です。リアルよりリアリティ……のコーラスで、下ハモのボーカルがあらわれる。リードボーカルの線と、ハーモニーボーカルの線、どちらかがリアルで、どちらかがリアリティの象徴なのか。サビの終わりに、Ah……とバックグラウンドボーカルが応答。その答えはおまえん中にあるんだぜ、と言われた気分。

エンディングは、2小節パターンのドラムフィルがひたすらに入って、短い間隔の緩急を延々とつづけて、全体の音量が徐々に下がってフェイドアウト……かと思えばエレキの8ビートが続き、リードボーカルが返ってきます。このときの音質が、まるで小型の飛行機の無線機を通したよう質感になっています。こちらは順調。そっちはどうだ? みたいな、離れた距離での音信を想起させますね。

リアルとリアリティ。ふたつは似て非なるものか。リアリティは受け手が見出すものであり、リアルは真実。真実もまた幻のようなもので、解釈する人によって揺らぐもの。人生のスピードのなかできりもみながら、リアルを貫き、切り裂き、リアリティを追求していくのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>十四才/フルコートHOTEL TIKI-POTO

参考歌詞サイト 歌ネット>十四才

↑THE HIGH-LOWS↓ Webサイトへのリンク

『十四才』を収録したTHE HIGH-LOWSのアルバム『HOTEL TIKI-POTO』(2001)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】音速と抵抗『十四才(THE HIGH-LOWSの曲)』ギター弾き語りとハーモニカ』)