まえがき
時代に風穴する図太く分厚いエレキギターのサウンド、妖しく艶めくリフレイン。集団陶酔にかかったようなボーカル群はレイヴ感とでもいえようか。レーザービームで射抜くかのようにちぢれ、細やかに強く揺らぐマーク・ボランのリードボーカルの異彩な色気が魔性です。
20th Century Boy T. Rex 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Marc Bolan。T. Rexのシングル(1973)。T. Rexの『GREAT HITS』(1973)がマーク・ボラン存命中の唯一のベストとされており、『20th Century Boy』を収録しています。
T. Rex 20th Century Boy(『GREAT HITS』収録)を聴く
サウンドが極厚! ギター、何本入っている? ボーカル、何人・何トラック入っている?
トロトロにトロけさせてくれるマーク・ボランの魅力、その魔性の理由が神秘ですが、ひとつにはリードボーカルのダブルトラックでしょう、案外シンプルな理由です。
マーク・ボランのリードボーカルって、1本でハナがあります。ちぢれたレーザービームみたいにピヨピヨ伸びるし、ゆらめくから、ある意味ダブルトラック向きじゃない……なんてことはありませんが、シングルトラックで十分な魔性を帯びる情報量があります。
それなのにこの魔性をダブルで重ねちゃっているのです。ただでさえ1本で十分情報量の多い歌唱を重ねてしまった混濁してしまわないか? 己を棚に上げて言えばそういう失敗例もきっと世の中のどこかの音楽作品にはきっとあるはずなのですが、この20th Century Boyにおいては、もはや私をワライタケでも食べておかしくなったかと思わせるくらいにニヤニヤさせてしまいます。情報量の多い歌唱が飽和することなく、純粋にリスナーの許容の情報量の上限を2倍にバフった上でそのキャパシティにトロトロの魔性の液体:マーク・ボランの歌唱はじめこの楽曲のすべての要素を流し込んできやがるのです。アブナいクスリだぜ。
ブワブワブワついて思えるギターの厚みを帯びて膨れ上がりまくったリフレインの輪郭が妖しすぎます。ベースギターとのユニゾンのせいが主な理由でしょうが、ギターも複数入っているかなとおもいます。ただ重ねただけでこのぶっ飛びの分厚さを獲得できるでしょうか? どんな機材と楽器なのかな。レスポール系の楽器には思えるのですが。
ユニゾンで、それからオクターブで轟きつづけるバックグラウンドのボーカル。なんなんだよ、何人いるんだよ。魔性にかかって発熱した集団陶酔感よ。男女混交に聴こえます。この世の享楽を煮詰めて蒸留した酒か、あるいは個体も全部形がなくなったドロドロの豚骨スープか。
非常に乾いて東欧的な……あるいはターキッシュとでもいうのかな、かなりキャラクターのクセが強いタンバリンみたいなのがチキチ!と鳴ります。16ビートを恒常的に埋め尽くすような振り方とまったく違う。アクセントとして局所的に入れるタンバリン(?)がまた魔性・魅惑の紅一点です。
エンディングでサックスがギラつきます。恐竜の背ビレみたいなものものしさよ。これでフェードアウトなんてあんまりだ、もっと聴かせろ!
しかもマーク・ボランのフェイクというのかライミングというのかインプロヴィゼーションというのか、何かをモニャモニャ唱えて喘いで、しまいにゃシャウトを捻り上げたあたりでけんもほろろにフェイド・アウトです。もっと聴かせろ! だけどこの短さがそう思わせるんですよね。与えたらおあずけの緩急をつけるのが、人をとりこにして骨抜きにする定石にして究極の奥義です。
青沼詩郎
参考歌詞サイト JOYSOUND>20th Century Boy
歌詞掲載参考サイト 世界の民謡・童謡>20th Century Boy 歌詞と和訳 T. Rex 浦沢直樹の漫画「20世紀少年」元ネタ 映画主題歌にも
『20th Century Boy』を収録したT. Rexの『GREAT HITS』(1973)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】時代に風穴 20th Century Boy(T. Rexの曲)ギター弾き語り』)