作詞:西條八十、作曲:服部良一。 映画『支那の夜』(1940)劇中で李香蘭が歌唱。渡辺はま子・霧島昇の歌唱が最初のレコード化と思われます。こちらの渡辺はま子・霧島昇版の編曲は仁木他喜雄さんでしょうか(参考Wikipedia)。

霧島昇の歌唱にうっとりさせられます。なめらかにつながった線が意志を強めたり、ちぢれ麺のように揺らめいたり。日本語の、子音が出て母音が伸びる言語を見事に味方につけている感じです。ややポジショニングの高い芯のある響きに惚れ惚れ。声種でいったらテノールでしょうか。

ストリングスが恒常的なダウンビートでゆったりと曲を安定したテンポで前へはこんでいきます。種々の楽器が入れ替わり立ち替わりあらわれ、モチーフをつないでいきます。オーボエ、ヴァイオリン、アコーディオンなんかもいるでしょうか? チラリとタイミングをずらして分散和音を置いていく、オルゴールのような金属質の音色の楽器はなんでしょう、グロッケンでしょうか。複数のマレットをそれぞれの手に持つ奏法なのか、わずかにタイミングをずらしてすばやく和音をストロークしていきます。

美空ひばりバージョンはシングル『蘇州夜曲/城ヶ島の雨』(1963)として発表されました。

ダイナミクス、表情に富んだオケの演奏、いわずもがな美空ひばりの歌唱が素晴らしい。艶やかでムードがあります。なめらかで品があって絢爛。広い音域がうわぁっと、賢くおだやかに語りかけてくる感じです。低音の金管・木管・弦の響きの豊かなこと、サウンドに圧倒されます。ピアノがタイミングをずらした和音のストロークでキランキランと彩を添えていきます。ドラムスのブラシのプレイの繊細なリズムづけも尊い。またスティックでシンバルの強弱を叩きわけニュアンスをつけるさまにも深い感動を覚えます。

「蘇州」がなんなのか、中国らへんを舞台にした物語なんだろうなと、漠然とした想像のふくらみを無知な私にもたらします。水の都のイメージのある、それらしい雰囲気をもつ、それなりの人口がいて人々の生活の土地であるのも実際のところのようです(Wikipedia>蘇州市)。

“花をうかべて 流れる水の 明日のゆくえは 知らねども こよい映した ふたりの姿 消えてくれるな いつまでも”(『蘇州夜曲』より、作詞:西条八十)

そんな水の路が目立つ都市でのロマンスを思わせる歌詞。恋しく思い合う人物像が、風景や土地の様子を思わせる描写とともにひしひしと伝わってきます。会える時間や機会がごく限られた、二人の逆境のようなものを漠然と私に想像させます。たとえば戦争など、社会的に大きな圧力やなんらかの逃れ難いしがらみの存在、人生の無常を思わせます。実際のところどうなのか、映画『支那の夜』を観てみたいです。

YouTube>蘇州夜曲(Soochow Serenade) – 李香蘭(山口淑子)へのリンク

李香蘭(山口淑子)の歌唱。たっぷり・ゆったりとした水の流れを感じさせる雄大なテンポと曲想のオケで、李香蘭のポジションの高く華やかな歌唱が映えます。繊細さとなめらかさ・安定感を両立する気品の高さを感じます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>蘇州夜曲

参考歌詞サイト 歌ネット>蘇州夜曲

服部良一「僕の音楽人生」(2006)

大歌手 霧島昇~旅の夜風・誰か故郷を想わざる(2020)

渡辺はま子全曲集 シナの夜(2018)

霧島昇・渡辺はま子の『蘇州夜曲』(1940)を収録した『昭和銀幕 デュエット名曲ベスト メロドラマ特集』(2021)

『蘇州夜曲』を収録した『美空ひばりベスト 〜 名曲をうたう』(2017)

『蘇州夜曲』を収録した『決定盤 李香蘭(山口淑子)大全集』(2009)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『蘇州夜曲 ギター弾き語りとハーモニカ』)