ラブリーサマーちゃんが2020年9月16日に出したアルバムの1曲目『AH!』
は映画『Fight Club』(1999)から着想を得たという話をネットで目にして、作品を観始めた。
一本の映画の視聴にかかる約2時間を生活のなかでまとまって確保することができず、2〜3回に分けてプライムビデオ(Amazon)で観た。
『Fight Club』は数年前にバンドをやっている友達に紹介されて、すでに一度観たことがあった。
昨日のこのブログの記事に、映画をおよそ半分までを観た時点での感想を書いた。半分まででも書きたくなることがあったからだ。
今日、残り半分を観終えた。
ああ、こんなだったか。あまりにも覚えていなかった自分に驚愕している。AH!だよ、AH!
後半で驚愕の展開がある。それを私はこれほど見事に忘れていたなんて!
と思う一方、その驚愕の展開の「タネ」って、実はその程度。仕掛けはあくまで仕掛けでしかないのかもしれない。本質は…この映画が持ついちばん重要なことは、「タネ」じゃない。仕掛けは、それを仕掛ける(ことばのとおり)ための文構(文章構造。ストーリーの構造。)でしかない。
映画には2人のメインキャスト。エドワード・ノートン演じる主人公(エンド・クレジットでは「Narrator」。語り手)と、ブラッド・ピット演じるタイラー・ダーデン。
2人は協働するが、いっぽうでハチャメチャなタイラーに振り回されたり取り残されたり、現実(と思っていたことを)覆されたりする主人公。この2人はウラオモテだ。ときに、社会のなかで別々の人格としてどこかにいそうな2人。それでいて、決してどこにもいない2人。
主人公たちは何と闘った(戦った)か。時代は現代。戦争も恐慌もない(いや、正確には「ある」かもしれないが)。
主人公とタイラーの闘い? 実際に2人が殴り合うシーンもある。出会って間もない時期と、エンディング付近。
社会構造との闘い? タイラーはそれをことごとく利用し、もてあそび、ブチ壊し、邪悪なものをがれきの上に構築する。ときにその行き過ぎ(?)に主人公は眉をひそめる。それでいてやっぱり、ときに2人は協働している。
男どもがバーの地下に秘密で集まり、殴り合う。それだけの会が「ファイト・クラブ」。このムーブメントは「秘密」がお約束。それしては、次第に広まる。複数の支部を持つようになり、全国的な展開にまでなる。みな、「闘いたい」のだろうか。顔面の傷が彼らがお互いを秘密のメンバーであると認識するトレードマークにもなる。ときに、青タンをつくってワイシャツを着て働く登場人物。
驚愕の展開の後半、そして大円団(!)のエンディングにクロスするのはPixies『Where Is My Mind?』。イントロのフワフワした歪んだエレキギターリフが美しい映像と高め合う。破滅的なラストだけれど美しいと思うのは、私もどこかオカシイのだろうか。
どこまでもリアルで切実、それでいて虚構のエンターテイメント。ひょっとすると「嘘」が美しいのか。
物語の冒頭で主人公は種々の「患者の会」に参加する。主人公に彼らのような病気は実際にはない。身分を偽って参加し、泣き合って抱き合ってすっとする。ここに主人公の己への偽りがある。
地下で男どもが殴り合うファイト・クラブは一種のファン、信者をも生む。彼らはタイラーたちのもとを訪ねてきて、「入門」を願う。次第に人数は増えていき、主人公いわく「タイラー惑星」ができあがる。そこには物語の冒頭で主人公が参加した「患者の会」で出会った偽りの友人(ただの知人だが)の姿もあった。
この友人はボブという。彼はタイラー惑星の暗躍(例えば都市に設置された、巨大な球体のオブジェ。これを爆破して転がし、階段状のスロープ下のカフェに突っ込ませる犯罪)に加担して、警察に銃殺される。タイラー惑星の「暗躍」は明るみに出始めていたのだ。「警察にマークされていた」のかもしれない。ボブは作中で唯一の死者だ。タイラー下のハチャメチャ、危険なシーンはほかにもたくさんあるけれど、意外に死者は他にはいない。強いて言えば…いや、映画を観てほしい。
タイラーは映写技師のパートをしていて、ある楽しみがある。ファミリー映画にポルノを1コマ混ぜるのだ。意識しない一瞬、と説明されるが、子どもが泣く、大人がちょっと訝しげにする描写もされる。しかし大ごとにはならないのかもしれない。タイラーはいろんな仕事をかけもちしている。
映画のラストシーンで一瞬(しかしはっきりと)、ポルノ画像が混じる(おそらくタイラーもご満悦の「デッかいイチモツ」)。この物語すべてが虚構だったとタネを明かす、メタ的な表現とも解釈できる。その一連は切実で汚く、痛々しくも美しかった。
青沼詩郎
ピクシーズの『Where Is My Mind』を収録したアルバム『Surfer Rosa』
『Fight Club』から着想した『AH!』を収録したラブリーサマーちゃんのアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』