作詞:湯川れい子、作曲・編曲:井上大輔。シャネルズのシングル、アルバム『Hey!ブラザー』(1981)に収録。

なんと絢爛で楽しさと愛らしさ、華やかさ、きらびやかさにまみれていることか。

なんだか「右から左」への流れを感じさせる定位、音像です。

ドラムスのタムタム。躍動していて激しく巻き起こる風のようです。

さもドゥ・ワップ・グループありなん、とでも評してよいのでしょうか、彼らのボーカルがタイミングをずらして順番に発声を重ねる間奏のところ。これもやはり定位の差異で右から左への流れを感じます。

チャカチャカとギターが右と左それぞれにいるでしょうか。右でシャカシャカっと鳴ったのが左に伝播するような感じといいますか、これも右から左にアクセントのバトンが渡るような印象を受けます。

ピアノがコチョコチョと絢爛でストリングスも颯爽と舞う風のよう。

これらをまんなかで束ねるマーチン(あえて愛称で失礼)の、ちょっとかすれるような鼻にかかるような、甘くて肉の隔たりを超えて伝わるような響きの独特のボーカルのキャラクター。華やかなバンドとボーカルの響きとの相性がすこぶる良いです。これが、どんなバンドにも埋もれないようなキンキンする系のキャラクターのボーカリストだったら、だいぶハマりが異なり、アレンジすら見直させるのではと思わせる。つまり、マーチンボイスとオケ、グループのコーラスワーク、非常によく調和し高めあっています。とにかく楽しく華やか。

歌詞も、渡すものを渡された通りに受け取れる、娯楽として聴く音楽への愛情を感じる実直なつくりとモチーフを感じます。

“追いかけて 夜汽車の窓 運んでよバカな俺を 辛いのと メモを残し 消えたのさ サヨナラも言わないで まるで 胸に 穴が開いたように 止まらない 止まらない 孤独の嵐だよ

ハリケーン ハリケーン ハリケーン Everyday is ザ どしゃ降り 離さない 今度こそは 移り気な 罪の痛さに泣いた 俺の胸は ハリケーン”(『ハリケーン』より、作詞:湯川れい子)

……と、かわいくて華やかで素敵な音楽である……のは相違ないと思うのですが、アレ? 主人公、けっこうダメというか、自業自得じゃありませんか? というおかしみ。

たぶんこれ、移り気を発揮してしまったのは「バカな俺」、つまり主人公ですよね? 自分が移り気してしまって、距離をとられてしまった”あの娘”を捜して“Midnight チュー・チュー・トレイン”……いえ、ゴメンなさい、言わせてください、あなた(主人公)バカです……。

主人公のその焦燥、後悔などの入り混じった、激動の不安の心情のマーブル模様こそが、楽曲の主題・ハリケーンだと解釈します。

スピード感のあるモチーフ「ハリケーン」を用いて、主人公の過失(移り気)をきっかけに主人公の想い人であろう「あの娘」が遠ざかってしまったさまをスリリングかつ緊迫感をもって描くことに成功しています。その割には、“Everyday is ザ どしゃ降り”……ん? 特定のひと晩の心の激動に焦点を当てて見える歌詞かと思えば、意外と主人公が「あの娘」との近しい距離を喪失した時間には幅があるようにも思えます。くる日もくる日もどしゃ降り。

あるいは、「あの娘」との距離はいくらか取り戻すことができたが、いまだに責められるので、おのれの罪の痛さに泣いた複数の日、時間的な幅をひっくるめて“Everyday is ザ どしゃ降り”なのかもしれません。そうであってくれ。そのほうが、結果オーライ(「あの娘」的にはなんにもオーライじゃない……オーライなんていったらそれこそ火が燃え上がりそうですが)で笑える(笑い飛ばしやすい、ネタにしやすい)気もします(笑えるか!と「あの娘」に怒られる)。

そんなに胸のうちにハリケーンを起こしてしまうほど、主人公にとって「あの娘」は尊重すべき対象なはずなのに、いっときの「移り気」で背信してしまうなんて……ちょっと私は主人公を弁護しかねます。

もちろん、すべての行為の結果を受け止めるのは本人でしかないので、他人の恋愛話に対しては私は黙って傾聴し、うなずき(肯定の意味ではなく、君の話、きいているよの意味)を与えます。そういう話を聞くのは好きですし、その体験談における彼(あるいは彼女)の行動が褒めるべきが咎めるべきかで、私は私自身とその体験談の持ち主との関係に寄せる方針をころころ変えたりしません。

つまり、この体験談の主が私の友達だったとして、友達のしたことは褒められたものじゃなかったとしても、そういう行いをした友達と、それを話された私との関係が揺らぐものではないと私は考えます。いわゆる、罪を憎んで人を憎まずですね。なんなら、「お前、バカだね」の言葉すら飲み込んで、私は黙ってうなずきを与えます。冷徹な奴に映るかもしれませんが、私なりの、友人に対する尊重と敬意です。

だから、『ハリケーン』の楽曲も、歌詞が描写する主人公のアホさ(失礼)込みで素直に楽しむことができるのかもしれません。なにしろ、音楽、演奏が良いし……。

演奏や曲が良けりゃなんでも受容・許容するのか! ……と怒られそうですね。「なんでも受容・許容」するかは場合によります。

ただ、「作品は作品」として見れてしまう方だという自覚はあります。つまり、「作品」のところに「友達の体験談」も代入できる。それはそれ、だと思うからです。……ハリケーン!(意味不)

青沼詩郎

参考Wikipedia>ハリケーン (シャネルズの曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>ハリケーン

シャネルズの『ハリケーン』を収録したアルバム『Hey!ブラザー』(1981)

Shanels RATS&STAR HURRICANE

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ハリケーン(シャネルズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)