サウンドのセンス、演奏の魔法が完璧すぎて音に浸ってボンヤリとしてしまいます(なんだコレ天才じゃないか)。
アコギのカポタストの位置が、めったに使わないくらいに高い気がします。テンション感いっぱいなのに開放弦の倍音感がキラキラただよう一因かもしれないと思いました。使用されているアコギはなんなのでしょう、マーチンとかなのか……カランとしているのにうるおい豊かな素晴らしい響き。アコギのオルタネイトの16分割のストロークは『初花凜々』のベーシック要素で音成分の比重をたくさん持っています。
ピアノがほろろんと薫り、グロッケンがカチンピシャンと光を乱反射。歌にオブリガードします。BGVが胸キュンのさわやかさ。サビ前の濁りの効いたビターな和声感、声の折り重なる複雑な響きはくるり作品のそれを思い出します。
疾走するベースのまっしぐらな様子、その恒常性がこの楽曲を、リスナーの私をボンヤリさせて洗脳かと思うくらいに説得しきり最後まで脳に直接ダバダバの汁を流し込み続けてしまう理由でしょう。
ドラムスがまた素晴らしい。エンディングでバシャバシャに盛り上がるシンバルのオープンな響きが泣かせます。ドツ、カツっとアクセントが強く気持ちよく、パワフルでエキセントリック。私のお気に入りのくるり作品『Birthday』では緻密な跳ねたグルーヴで快演を吹き込んだ臺太郎さん、『初花凜々』でも快調な曲想をブンブンに増長する演奏です。
強く歪んだエレキギターがオルタナっぽい。ジンジン、ブーンと存在感あるサスティンをみせます。長い音価を描き込んで、颯爽とバー(小節線)を抜けていく。
Coccoさんのボーカルのキャラクターは(いうまでもなく)稀有。キラキラチャカチャカと、ポジション高めの儚いサウンドのオケを基盤に、彼女のゆったりとした落ち着いた心を感じさせる低めの音域のやわらかな響きと、激情の芯の強さの振れ幅が常に同居したようです。Bメロくらいからはエモーションが徐々に露わになるよう。サビの「ハロー」のリフレインが言霊となって広く世界に降り注ぐ雪のよう。春を感じさせもしますが、非常にシビアで厳格な冬のちりつき、寒さも覚える霊感荘厳な楽曲はセンスのお化けです。
コード進行などは比較的真似がしやすく、そこが数多のリスナーやほかの音楽人からも大変好かれている。カバーやカラオケの対象としても非常に選ばれているようですし、リリース当時も聴いた私が久しぶりに『初花凜々』を意識するきっかけをくれたのも、今年か去年くらい(執筆時:2023年)にラジオ番組でかかったのを耳にしたことでした(リクエストされた模様でした)。
真似したくなるコード進行に、かけあわさるボーカルのメロディアスのシンプルな構造を、キラッキラの儚いサウンドが支える。「儚いサウンド」が「支える」は矛盾したように思うかもしれませんが、ベースやドラムスの確かさがかえって儚さを強調するのかもしれません。素晴らしい演奏は引き立て合い、ずっと「いる」のに急に意識から消えたりするのです。ほかの人を「立てる」ので。その順番がひっきりなしに巡り合うのが「演奏」の醍醐味です。お世辞全カットで私が生演奏(人間による楽器や体・声のサウンド)を愛好し酔狂する理由です。
青沼詩郎
SINGER SONGERのシングル『初花凜々』(2005)
『初花凜々』を収録したSINGER SONGERのアルバム『ばらいろポップ』(2005)
『初花凜々』を収録したCoccoの『20周年リクエストベスト+レアトラックス』(2017)