私の世界 かもめ児童合唱団 曲の名義、発表の概要
作詞:岡田恵和、作曲:井上鑑。かもめ児童合唱団のシングル(2013)、アルバム『インターネットブルース』(2016)に収録。日本テレビドラマ『泣くな、はらちゃん』(2013)挿入歌、オープニングテーマ。
かもめ児童合唱団 私の世界を聴く
可愛いサウンドの宝石箱です。歌がもうかわいい。ヘッドフォンで聴くと、複数の児童の声が左右に開いているのがわかります。ど真ん中定位に強い子がいる、という感じではなく「開いている」印象がかもめ児童合唱団の生演奏ステージを思わせる音像です。
チェロやトロンボーンでしょうか、低域を担当する管弦楽器がサウンドの核です。サイドに開いたフルートの音色にはルームアンビエンスが感じられ、手作りの質感が知覚できます。児童の幼くもはきはきとした元気な声と相まって、かわいい。
エレキギターのサウンドは、アンプのスプリングがピチョピチョいうような質感がある気がして、ロックな性根を感じるところも味わいどころです。途中で、ワウペダルをちりめん並みに細かく踏んで揺らした、あるいはコーラスのエフェクトの類をかけたみたいなアナザーサウンドも感じます。音量的には補佐的な存在ですが、エレキギターのサウンドの趣味がツボです。
ラテンパーカッションがにぎやかですし、ドラムのプレイと息ぴったりです。ドラムがまた緻密で音のコントロール、ニュアンスが抜群です。リズムの分割が、基本はトリプレットでゆるやかにハネる感じのグルーヴですが、オカズひとつで偶数分割のノリに変わるなど芸が細かいのです。かわいいだけじゃなくて、すごくニッチで深い音楽趣味が感じられます。さすがかもめ児童合唱団と唸る私。
心はあなたのもの
世界じゅうの敵に降参さ 戦う意思はない
世界じゅうの人の幸せを祈ります
世界の誰の邪魔もしません 静かにしてます
世界の中の小さな場所だけ あればいい
おかしいですか?
人はそれぞれ違う、でしょ?でしょ?でしょ?
だからお願い かかわらないで
そっとしといてくださいな
だからお願い かかわらないで
私のことはほっといて
『私の世界』より、作詞:岡田惠和
誰にでも共感されるように、この歌が「みんなのもの」であることをハナから放棄したような歌詞が印象的です。でもそのスキマの突き方が的確で、だからこそかえってあらゆる個人が肯定される読み味が見出せます。
「世界の中の小さな場所」は個人の部屋を思わせますし、それは個人の心の象徴でもあります。そこは、誰かとシェアすればなんでもいいというものではありません。むしろ、不可侵の領域をお互いに持っているからこそ尊敬し合えると私は思います。そのことを素直に、平易な言葉で表現した歌詞が独特なのです。ひねくれている? かといえばちょっと違う気もしますし、だからといって素直で馬鹿正直な言葉ともちょっとちがいます。すごく、ニッチ。「隙間」的なのです。
自分の居場所をつくるには、枠が自分のカタチになってくれないと心地よくないでしょう。自分の心身をもって、型をとって、枠を恒常的に過ごせるようにデザインしていく。短期間で完璧に作りあげる必要はないでしょう。ゆっくり、お互いをいたずらに邪魔したり過干渉したりしないように、誰もが見守りあいながら生きていけたら良いです。
青沼詩郎
『私の世界』を収録したかもめ児童合唱団のアルバム『インターネットブルース』(2016)
渋谷クラブ・クアトロでのライブ音源を追加収録したかもめ児童合唱団のアルバム『インターネットブルース・デラックス・エディション』(2021)
ドラマ『泣くな、はらちゃん』DVD-BOX(2013)。岡田惠和さんが本作の脚本を担当しており、楽曲『私の世界』の作詞もしています。なるほど、ポップソングの登場人物としては異質というかニッチなキャラクターが楽曲で表現されているのが腑に落ちるいきさつです。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『私の世界(かもめ児童合唱団の曲)ピアノ弾き語り』)