あしたのジョー 尾藤イサオが歌った『あしたのジョー』主題歌 曲の名義、発表の概要
作詞:寺山修司、作曲・編曲:八木正生。アニメ『あしたのジョー』主題歌(1970)。シングル『あしたのジョー/ジョーの子守唄』(A面:尾藤イサオ、B面:小池朝雄)に収録。
尾藤イサオ あしたのジョーを聴く
これは素晴らしいな。編曲がすばらしい。作曲の八木正生さん自身によるものです。
金管づかいが印象の表層。トランペットの高なる勇壮な響きはもちろん、低いところのボリューム感で支えるのはトロンボーンでしょうか。スタローン主演の『ロッキー』的な音楽を連想させる金管はこのテのエンターテイメント作品の劇伴や主題歌に必須の役者。
エレキベースは金管の質量感に比べて軽い存在感。ドラムセットが面白くて、バスドラムがいないように聴こえます。左いっぱいに振ったスネアドラムが鼓舞します。断続的なリズムで勇猛にサンドバッグを叩いては離れて距離を取りひと呼吸を入れる。ヒットアンドアウェーするボクサーのリズムに重なるスネアです。スネアだけを用いているのかと思いましたがリムショットとハイハットを使っている部分があるようなので、やはり一般的なドラムキットの「3点」からキックドラムを欠いたような引き算の使いかたがうまい。マレットパーカスのフォウンと漂う響きがふくよかで懐の深さを思わせます。
キック不在にした訳はずばりティンパニがいるからでしょう。余計に低音を重ねない指針はアレンジメントの金言。トランペットが高なる、歌詞のいないところをダンダン!と強く印象付けます。歌詞があって、平静に歌うメロを引き立てるのです。
尾藤イサオさんの歌唱の地面が一緒に共鳴してうなるような低域の響きに、ほんもののやくざもののスゴみのような風格を感じます。まじでやばくて格のある人は、人を脅すときにキャンキャン騒ぎ立てたりみだりに大きい声を出すのでなく、過不足のない声量で要旨を適確に伝えます。脅す、というかイーブンな交渉です。俺とあんたのために一番いいようになるように言っているんだ……理解るよな? という感じです。吠えろ、吠えろ、吠えろ! とエモーショナルに響きをオープンにする部分が引き立ちます。ダイナミクスある歌唱のお手本です。
尾藤さんの歌唱の固有の響きのおいしさ、ダイナミクスの凄み・表現の幅と完璧に機能し合う編曲と演奏。これは「名曲」「傑作」の冠がふさわしいでしょう。歴代、ピンからキリまで「アニソン」の定番が存在するでしょうが、『あしたのジョー』はレジェンドに位置付けてよろしい。
青沼詩郎
尾藤イサオ『あしたのジョー』を収録した『あしたのジョー オリジナルサウンドトラック 本命盤』(2003)。この“本命盤”についての詳細を記載したHMVサイトへのリンク
尾藤イサオによるセルフカバー『あしたのジョー (21st century ver.)』(2009)。オリジナルバージョンもカップリングとして収録している。『あしたのジョー (Anniversary ver.)』も収録しているので3バージョンの聴き比べができる。フィジカルが品薄。Spotifyで聴ける。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あしたのジョー(尾藤イサオが歌った『あしたのジョー』主題歌)ギター弾き語り』)