THE BLUE HEARTS シャララ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:甲本ヒロト。THE BLUEHEARTSのシングル『ブルーハーツのテーマ』(1987)に収録。ベストアルバム『SUPER BEST』(1995)にも収録。
私はシステムの中に立つ
“シャララ”(シャララーラ、シャララーラ……)のリフレインが平和的で純朴に響きます。
“ヘリコプターに驚いた お天気の神様が 「さようなら」も言わないで 黒い雨 降らせてる”(『シャララ』より、作詞:甲本ヒロト)
平和で純朴そうな主題『シャララ』のリフレインが印象的ですが、タッグを組むのは痛烈で辛辣なラインです。黒い雨は黒い雨に違いないのですが……具体的にはどんな雨か。放射能の雨なのか。そう言い切っているわけでもないのですが……。
シングル『ブルーハーツのテーマ』にカップリング『チェルノブイリ』、そしてこの『シャララ』を収録した形で発表された作品。お天気の神様が驚いて降らせてしまった黒い雨。できることなら、事前に「さようなら」を告げて然るべきだった雨。命を脅かす危険な雨。それが黒い雨でしょうか。
“大変だ! 真実がイカサマと手を組んだ 誰か僕に約束の守り方教えてよ”(『シャララ』より、作詞:甲本ヒロト)
もう何も信じられない! だって真実は本当で、信じていいものだから真実と私は呼ぶのです。私の解釈の正道、それが真実……いえ、己の解釈が正道というのも高慢です。つまり、真実もイカサマも、実は近いところにいて、時にはグルになっている。私が思うより、真実はあやういものなのかもしれません。何を信じたらいいのでしょう。つかまる手すりすべてがぐらぐらして、まっすぐ立てない。約束なんて守れたものじゃありません。種々のモノサシが揺らいでいるのです。自分が約束を守ったつもりでいても、「反故にされた」と訴える人が現れうるのです。なんで? とこちらが訊けば、「こちらこそ、なんでか訊きたいよ」と返ってくる。お互いの理解を超越しあって、コミュニケート不能に陥ってしまう。この世の最もおそろしい行き違いです。相手への配慮がそのまま刃になる幻覚みたいな現実。
約束を守りあうのも無理。己の真実を正義として冷静に提示しただけのつもりでも、相手には脅威になっている。ぴくりとも動かずに、認め合い、受け入れ合うしかないのでは?
“すべての罪は”“みんなで分けましょう みんなで分けましょう”(『シャララ』より、作詞:甲本ヒロト)
他者の過失を責め、責任を取らせる。糾弾する。叫び、批難し、理想のために攻める。罪を償わせる。己の正しさの尺度で悪を特定し、攻撃する厳しさも時に必要なのか? 私に最も足りないものかもしれません。
誰か一人が悪いのか? たったひとりのせいで、すべての事件や事故は起こるのでしょうか。風が吹けば桶屋が儲かる式に、世の中はつながっている。私の指先の些細な動き一つが、今日や明日のあなたを殺さないとどうして言い切れるのか。理屈を捏ね始めれば、すべての罪は分かつべきだと至るのでしょうか。
「自己」の範囲やいかに。私は私、あなたはあなたで、関係ないのか? 独立したもの同士なのか? 対岸の火事は対岸に任せよ、で良い? 本質的に独立なんてありえるのか? 立つってどういうことか。赤ちゃんだった子が、はじめて自分の二本の足で立つくらいで「立っている」「独立している」と言っていいのなら、みんなひとりで「立っている」に違いありません。今朝、邪魔くさいゴミを収集して持っていってくれたのは誰? お腹が減った私が求める食材をスーパーに並べて準備しておいて売ってくれたのは誰? 私は大きいシステムの中にいて、部分的に立っているのに過ぎないのです。立たされているのか、立っているのか。
ブルーハーツの音楽は善悪の議論をふっかけてなんかいないと思うのです。ただただ、ぶちかましている。呑み込め! 美味いか? 不味いか?! だったらゴメンな! 美味かったら最高だ。ありがとう! 私は美味いです。
「誰かが殺したかもしれないから、誰が殺しても同じだ」なんて極端すぎます。そういうことじゃない。誰がやってもおかしくないことは、なんでもやっていいことにはならない。
『シャララ』の主題が、すべてを超越した頭上で空の青をつないで旋律を結びます。これだよ、フルーハーツの音楽はこれなんだ。140字じゃ言えない真実がイカサマと手を組んでいる。さあ、またふりだしだ。歌は続くのです。
THE BLUE HEARTS シャララ(『SUPER BEST』CD収録) リスニングメモ
ギターリフやボーカルの独特の乾いたルーム感。非常にタイムの短いディレイのようでもあり、ドライなのですが奥行きのあるサウンドです。ポスっというスネアの音がコミカルで可愛い。ベースのペンタトニックスケールの動きも愛嬌があります。リンリンと絢爛な響きのタンバリン。鈴じゃないよね? というくらいに透明で余韻がミヤビなサウンドを添えます。
エレキギターとビブラフォンのオブリガードの一瞬の空間の埋め合い・ユニゾンのコンビネーションが絶妙です。間奏のポッポッポーと可愛い音はリコーダーのサウンドをキーボード(シンセ)で演奏したものでしょうか。折り返しでハモリになります。
エンディングはもうなんでもやったれ!ちんどん屋に聴衆も参加して延々と列が連なったみたいな様相です。子供の声も現れます。大人の女声も混じっているかもわかりませんが。「オイ!」だかなんだか、かけ声が飛び交います。ストリングスのシンセもあらわれて、本当になんでもありの様相です。
エンディングはゆったりとしたフェードで行進が延々続く演出です。さあ、真実とイカサマの堂々巡りに生きる限りお互いに付き合ってやろうじゃありませんか、という具合のサウンド面もまた好し。
青沼詩郎
THE BLUE HEARTS YouTubeチャンネルへのリンク
『シャララ』を収録したTHE BLUE HEARTSの『SUPER BEST』(1995)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『シャララ(THE BLUE HEARTSの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)