私はザ・スパイダースが大好きです。グループ・サウンズが大好きです。スパイダースはグループサウンズの中でもかなりトガっていると思います。演奏力もあります。ジョークのセンスといいますか、かわいくふざけるセンス、お茶目さ、愛嬌みたいなものをかんじます。かと思えば、『スパイダース アルバムNo.3』なんて彼らの作品を聴くと気がくるったみたいにボーカルが叫びまくっていたり……つくづく振れ幅があって個性がつよくて愛着のわく、へんなグループなのです。

私の敬愛する音楽家のかまやつひろしさんがいたのも、テレビのバラエティ番組を司るタレントのイメージも強い堺正章さんがいたのもスパイダースです。

井上順さんの低くて素朴な歌声は彼のソロ曲の『お世話になりました』で堪能できます。イケメンで声が落ち着いてる。井上さんのキャラもまたスパイダースを構成した魅力のひとつです。

フレーミーのうた 曲の名義、発表の概要

作詞:佐藤雅彦・内野真澄、作曲:渋谷毅。歌唱:井上順。NHK教育テレビ『ピタゴラスイッチ』(2002-)のフレーミーのテーマソング。『ピタゴラスイッチ うたのCD』(2010)に収録。

井上順が歌ったフレーミーのうたを聴く

ぎゅぎゅっとかわいさがつまっています。

弱起でメロディがはじまって、強拍(小節のアタマ)にフレーズがかかり、小節中の2拍目以降がすっきりと空くモチーフをリフレインする歌メロですが

“はしる はしる”(演奏時間23秒頃)

のところでメロディの密度が上がるところが最高。歌詞も“はしる はしる”ですから、音楽上のデザインと言葉の意匠が合っています。こういう短いコンパクトな歌にはデザインのセンスが重要だとつくづく思います。CMソングだったり、この『フレーミーのうた』のようにテレビ用の曲ほどなおさらそういう職能が作品に活きるでしょう。

ウォーキングベースというのか、4つ打ちでずんずん闊歩していくリズムです。ピアノがウンチャウンチャ……(伝わります?)と、各拍のウラにリズムをキメて分割のテクスチャを描き、軽くはずむ足取りをおもわせます。フレーミーはしかくい犬とのことですが、特徴のある変わった犬がかろやかに脚をはこんで路を往く様子を思わせます。

ビーメロにいくと歌唱もハリが出てきます。男声のコーラスが厚みをなします。ドゥ・ワップを思わせるスタイルで、朗々と、ジェントルです。かわいいキャラが紳士ぶったらギャップ萌えですよね。

音の数(パート数):ベーシックはコンパクトですがコーラスが入ってサウンドはリッチです。シンプルですが井上順さんのジェントリーな声の質感がセンターを司り、アコースティックな生楽器の響きでテクスチャそのものが魅力です。

音楽って、その演奏者が録音物に込めた時間の記録だと思うのです。

たとえば打ち込み(プログラミング)の音楽だったら、打ち込みに費やした時間というのは存在するかもしれませんが、それを「生きた人間が演奏した時間の記録」として味わうことはできません。

『フレーミーのうた』自体がどうこうという話を逸れてしまいますが、『フレーミーのうた』が私に強く印象づける楽器の演奏や声の響きが、そんな音楽の本質的な気持ちよさの秘密をそっと明かしてくれる気がしてこんな話になったわけです。そう思いませんか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ピタゴラスイッチ

井上順が歌った『フレーミーのうた』を収録した『ピタゴラスイッチ うたのCD』(2010)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『フレーミーのうた(『ピタゴラスイッチ』のフレーミーのテーマ)ギター弾き語り』)