昔の唄 金子由香利 曲の名義、発表の概要
作詞:Line Renaud、作曲:Louis Gaste。原曲はLine Renaud(リーヌ・ルノー)が歌う『Ce Refrain D’Autrefois』。初出はシングルレコード『Vivre Tout Simplement / Ce Refrain D’Autrefois』(1973)。金子由香利による日本語の歌唱がアルバム『人生は美しい』(1990)に収録。訳詞:高野圭吾。編曲:服部克久。
金子由香利 昔の唄を聴く
金子さんの歌唱、低い音域のやわらかくてあたたかいふくよかな響きを利かせたかと思うと、ふっと青空に向かって力を抜くような響きにすぐさまスイッチ。語尾で音を伸ばすときは大体このすっと力を抜いた響きです。こういうのがシャンソン特有の歌唱の特長なのか、あるいは金子さん固有の特長なのでしょうか。声域の響きの色んなところをコントロールして自由に行き交い、テレビのチャンネルを変えるみたいに思い出のなかの時代を瞬時に超越してザッピングするようです。洒脱で大人な歌唱。
歌唱もそうですし、音楽(オケ、バッキング)が洒脱。
ベースの深い器量の大きい響きとコンビネーションするのはドラムじゃなしにパーカッション小物の振り物です。シェーカーなのかマラカスなどなのか、カバサなどなのか。シャッシャッシャ……と短い音で成すリズムのエッジがやわらかいです。
ストリングスの音形も表情豊かです。高域パートで耳を誘導したかと思えば低域の響きをうわっと立ち上がらせます。ダイナミクス、音域、モチーフ形ともに豊か。準固有音を経過して固有音に着地するわびさび。思い出をかえりみて、酸いも甘いもを再生してはいまこの瞬間の平穏をかえりみます。
歌詞で「ピアノ」が出てくるところでピアノがかろやかにささやかにリスナーの耳をひきます。さっきからずっといたのに歌詞で「ピアノ」が出てきたから私がピアノの存在を認知したのでしょうか。
ナイロン系のギターもいるようか、ぴちぴちぽこぽこと麗しい輝き感を覚えます。
公共施設で地元の人が歌っているのをたまたま耳にして知った曲。「昔の唄」という歌詞の文末の決め句のリフレインが印象的で、気になって検索してこの曲にいきあたりました。
シャンソンは力の抜けた演奏の流麗さ、音楽のアカ抜けた態度が魅力です。まだまだ知見の不足するジャンルです。どんどん聴いていきたいし、自分でも歌っていきたいジャンルです。
銀巴里というお店が銀座にあったといいます。そこに出演することが演者に「箔が付く」のに相当するような、出演者にとってもお客さんにとっても憧れの場所です。ロックとかフォークでいったら博多の音楽喫茶・照和みたいな感じでしょうか。金子由香利さんはその銀巴里出演者のひとりとして知られています。美輪明宏さんも銀巴里の出演者だったそう。シャンソンの聖地のようなお店だったのでしょうね。お店があれば行ってみたかった。「もしも」のタイムスリップ先のワナビーがまたひとつ増えてしまいました。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Line Renaud、金子由香利、シャンソン
参考サイト 朝倉ノニーの<歌物語>昔の歌Ce refrain d’autrefois
金子由香利による日本語詞の『昔の唄』を収録したアルバム『人生は美しい』(1990)