僕の右手 THE BLUE HEARTS 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:甲本ヒロト。THE BLUE HEARTSのアルバム『TRAIN-TRAIN』(1988)に収録。

THE BLUE HEARTS 僕の右手を聴く

これほどに直線的な印象を与えるのも稀有です。

ドラムのハイハットのエイトの刻みにエライ!と拳を握って応援したくなります。

グリグリとオルタネイトストロークでまっすぐに押し出すベース。シングルストロークのハイハットとオルタネイトっぽいベース。このかけあわせが良いのです。演奏を録らなくちゃ。こうでなくちゃね。

ギターのチューニングもわずかにうわついた弦が含まれるような青臭さ。ミャンミャンとかき鳴らしても好きなだけやりなさい!と応援したくなる、クランチと言い表せるくらいの歪み具合でしょうか。真っ直ぐに直線的にビートを押し出していきます。そう、ほとんど全員で真っ直ぐにビートを押し出している。叩けば鳴る楽器でバンドが組めるんだぜというアティテュードへの全振りを感じます。

と、これだけでも十分わたしは背中を押されるし私のほうも彼らの背中を押したくなるのですが、オーバーダブの味付けでアコースティックな生ギターの音が入ってきます。ナイロン系のギターでしょうか。ある意味、この直線的なバンドの「一発感」ただようサウンドに対して異質なコラージュともいえるかもしれません。バンドの一筆描きを客観して言いそびれたことを書き足すような、そんなアレンジに思えます。

バンドのビートは真っ直ぐですが、リードボーカルの感傷的なことよ。響きがあって、時間的な奥行きを感じさせます。エンディング付近の“だから”……のところなんて消え入ってしまいそう。両掌を祈るように組んで応援したくなります。

僕の右手を知りませんか? 行方不明になりました 指名手配のモンタージュ 街中に配るよ

『僕の右手』より、作詞:甲本ヒロト

たとえば“三億円事件”で有名になった名詞がモンタージュでしょうか。複数の視点によるパーツを組み立てたもの……というのが元来のモンタージュの意味だとか。探し物の特徴をばらばらと挙げ連ね、それらを統合するとこんなふうになるはず……という、ばらばらの視点や証言による合作が、たとえば犯罪捜査における犯人との疑いのある人物の「モンタージュ」写真みたいなものかもしれません。

今すぐ捜しに行かないと さあ早く見つけないと 夢に飢えた野良犬 今夜吠えている

『僕の右手』より、作詞:甲本ヒロト

右手は多くの人にもともとついているものです。事故や病気などで失う事例もあるでしょう。でも、だいたいの場合、いつのまにかどこかへ行ってしまうようなモノではありません。

つまり「僕の右手」は象徴なのですね。なんの象徴でしょうか。

仮に利き手の象徴だとします。

気に食わない馬鹿をブン殴る右手。

お箸を持って、ご飯を口にはこぶ右手。

ゲーセンで格闘ゲームに打ち込む彼。パンチやキックのボタンをタップするその右手。

ギターを弾くなら、弦をはじくほうの手。ピックを持って、上下に振り、ビートを前に前に進める右手。

天に向かって突き上げるための右手。

理想を、理論を、おとぎ話を原稿用紙に書きつけるための、ペンを握るための右手。

何をするにも、右手から始まる。そう言って言い過ぎではないでしょう。とにかく、生きること、暮らすことの初手、基本が右手にあるのです。生命の、意思のシンボルなのです。

見た事もないような ギターの弾き方で 聞いた事もないような 歌い方をしたい だから 僕の右手を知りませんか?

『僕の右手』より、作詞:甲本ヒロト

俺は誰とも違う俺なんだ。それを証明するための右手です。ここにある……はずなんだけど。僕の右手は、僕が一番知っているはずなんだけど。その所在を問う気持ちとは。問わねばならない必然とはどんなものなのか。

なんでそんな問いを? という、問いが問いを呼ぶのがこの主題を含むフレーズ“僕の右手を知りませんか?”の妙なところです。

答えは、右手の持ち主が一番よく知っているはず。問うまでもないことをわざわざ問うているのです。愛すべき馬鹿野郎の目を覚ますために、わざわざ言っているのかもしれません。

人間はみんな弱いけど 夢は必ずかなうんだ 瞳の奥に眠りかけた くじけない心

『僕の右手』より、作詞:甲本ヒロト

こちらが困惑するくらいに真っ直ぐなのです。

引き金を引くのも右手。マイクロフォンを握るのも右手。“知りませんか?”って、キミ、どこへも行ってやしないよ。そこにあるじゃないか、その拳が君の右手だよ、と。

青沼詩郎

参考Wikipedia>TRAIN-TRAIN (アルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>僕の右手

THE BLUE HEARTS YouTubeチャンネルへのリンク

『僕の右手』を収録したTHE BLUE HEARTSのアルバム『TRAIN-TRAIN』(1988)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『僕の右手(THE BLUE HEARTSの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)