ショルダーバッグの秘密 吉田拓郎 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:吉田拓郎。編曲:鳥山雄司・武部聡志。吉田拓郎のアルバム『ah-面白かった』(2022)に収録。

吉田拓郎 ショルダーバッグの秘密を聴く

リバースのイントロが回顧を演出します。リバースした際にどんな響きの進行になるかを見越してコントロールしたような理性を感じますね。

11月20日に“コンセプトミニアルバム”として吉田拓郎さんの新作『ラジオの夢』の発売が予定されています(私のこの記事の執筆時:2024年10月)。アルバム『ah-面白かった』の発表時はこれが最後のアルバムになるというような触れ込みでしたが、吉田さんの泉はまだまだ湧くものがある様子でしょうか。もちろん、ある程度以上のサイズを確保したオリジナル/スタジオアルバムの体裁をしたものは『ah-面白かった』が最後になるというのは依然として変わらないのかもわかりませんが……

『ショルダーバッグの秘密』。何を持ち歩いているのでしょう。もう少しみていきます。

リバースのイントロが覚めると、いわゆるロックンロールの伴奏、根音を出しながらベースからかぞえて5度の音を6度にのばしては戻す王道パターン。左右にエレキギターが振ってあって2本が共演します。

随所でグリッサンドするピアノが華をちらします。オルガンのあたたかな響きは色でイメージすればオレンジ、暖色系のキャラを覚えます。

ザシ!とドラムスの音が印象的。タイトにしかし質量感をもったサウンドで印象づけます。ベースはよく動き、よりぬいた点をキックドラムがとらえます。

吉田さんのリードボーカルはダブルのサウンド。落ち着いたトーンを保つのはミュージシャン生活で身についた貫禄か。ハーモニーパートは現れません。シンプルに決めるスタンスです。

真似が難しいくらいに、ボーカルの音程やリズムが急(せ)いたり逸脱せんばかりにトリッキーな動きをすることも多い吉田拓郎作品群の中では、『ショルダーバッグの秘密』は比較的鑑賞者も一緒になって歌いやすそうな平易で大衆的なバランスを持っています。

想い出いっぱいあるから 心の中からさがし出そう その時その頃風の中 ウブな記憶に逢いに行く そしてやっぱりいつものように 気がつくんだよ今日もね あの日の事が心の中で「麗しすぎて」てれてる

『ショルダーバッグの秘密』より、作詞:吉田拓郎

自分のキャリアを俯瞰して、もう後ろに振り返る時空のほうが明らかに多いと自覚しているがだからこそそれらに愛のまなざしをやり温かくほほえましく思う、ポジティブな気分が音楽と言葉で表現されています。後ろを振り返っているのに前向きなのです。私の好きな尊敬する表現人は、だいたい振れ幅を心のなかに宿している。相反する観点を心のなかに同居させている。対極を包含させた表現をしている。そういう場合が多いです。

そういう振れ幅と、それを同居させて持ち歩く器の広さと、それでも身が鈍重になることのない機動性を持っている人を私はしばしば敬います。

ショルダーバッグはフットワークの軽さの象徴でもありますね。ちゃんといろいろ入るのですが、動きやすさも保証してくれるアイテムです。

ショルダーバッグに腕通し いつもの街を歩いてる 誰も知らない事がある 話せなかった時の唄 胸の深いところに置いて 固く縛ったままだよ 遠い想いは見えないままに 静かな夜に目覚める

『ショルダーバッグの秘密』より、作詞:吉田拓郎

あるいはショルダーバッグの中にもない、自分の身や心とは距離を置いているけれど、確かに過去に接し、すれ違ってきた多くの物事、人との記憶や事実があるのかもしれません。

持って歩くものもあれば、置いてきたものもある。

そういう遠い記憶を巡って旅をするのも、吉田拓郎さんくらいのキャリアの持ち主になれば格好の頃合いなのかもしれません。いえ、もちろんもっと下の世代が随時そういう振り返り、あるいは記憶や事実を確かめる旅をすることもまた好ましい刺激だとも思います。

愛する事は生きる証さ 真実の自分に聞けばいい そこに居たのは風のいたずら 運命なんて明日の雲 ショルダーバッグにしまった過去は 今日も踊ってる

『ショルダーバッグの秘密』より、作詞:吉田拓郎

いくらうしろを振り向いてみても、愛こそが生きる証と結論して明るくいられるのだと結びます。それも無根拠ではこちらは信用し難いですが、本当にこの曲の主人公はそうなんだよ、こんなロックンロールを奏でる今日に行き着いているんだよと、中身のすべてを見せてはくれない観念上のショルダーバッグと共に私にあいさつしてくれるのです。中身の全部は教えてやらないよ、でもそいつらはごきげんなエンターテイメントのリズムに体を揺らしているんだぜと。

これで、キャリア最後と謳ったアルバム『ah-面白かった』が幕を開けるわけです(アルバムの1曲目なのです)。私もショルダーバッグを携えて、あんまり今日この頃行かないけれどいつか行った街をめぐりたくなります。

青沼詩郎

吉田拓郎 公式サイトへのリンク > Discography > アルバム「ah-面白かった」

参考Wikipedia>ah-面白かった

参考歌詞サイト 歌ネット>ショルダーバッグの秘密

『ショルダーバッグの秘密』を収録した吉田拓郎のアルバム『ah-面白かった』(2022)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ショルダーバッグの秘密(吉田拓郎の曲)ギター弾き語り』)