柿の実色した水曜日 ふきのとう 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:山木康世。編曲:瀬尾一三。ふきのとうのシングル、アルバム『人生・春・横断』(1979)に収録。

ふきのとう 柿の実色した水曜日(アルバム『人生・春・横断』収録)を聴く

ろうそくを消そうと息を吹きかけたらよろめいてしまいそう。そんな可憐な歌唱が印象的です。力なく、諦観に満ち、傷つくことに極度に敏感になっている……そんな心情を思わせる歌唱です。このナイーブな表現は細坪さんによるリードボーカルでしょうか。

エレキギターのクリーントーンのリードが冷たい。こんなに冷やっこいギターの音色が聴けるのも稀です。澄み渡り、透明なイメージがわきます。つららの先から滴り落ちる水のようです。

ピアノがチラリチラリとこもれびみたいに見切れます。ストリングスの高音がヒィィィ……といるのかいないのかくらい繊細なダイナミクス。

ボーカルの繊細な歌唱の居所を尊重してか、倍音がガシャガシャうるさいモノが入っていません。ドラムスはブラシのプレイ。Aメロなど静かなところではそもそも休符しています。やっと入ってきたかと思えばブラシで奥ゆかしい音量で木立のささやきのようなリズムを背景に加えるかのようなプレイです。フィルインするタムのタン、トン、トン……が優しい。

エアリード系の音色はオカリナでしょうか。輪郭がやさしくて、素朴で純粋無垢・イノセントな音色なのですが、なぜだか感傷的な心情にむしろそこが突き刺さります。純真さが、スレた心にまぶしすぎてツラい。そういう心情もあると思いませんか。

柿の実はどんな色か

今度君に いつ逢えるかな 偶然街で 逢えたなら やあ こんにちは 元気そうだね それとも 知らん顔をして いつものくせで 腕組んで 空を見上げるの

『柿の実色した水曜日』より、作詞:山木康世

偶然の遭遇は、主人公にとって望ましいのでしょうか。出くわしてしまったときに態度に困惑するようであれば、気づいていないふりですれ違って済ませるのも選択肢です。わざわざ立ち止まって声を交わし合うのは、お互いに、その程度のコミュニケーションが偶然生じることは歓迎している仲だということでしょうか。

今日でふた月 別れた日から 忘れるようにしたけれど 声が聞きたい夜があったら たまには電話してもいい いつものくせで ぶっきらぼうに もしもし はいそうです

『柿の実色した水曜日』より、作詞:山木康世

あなたから私のほうに電話をして来て構わない、という意味なのか、もしくは私からあなたに電話をすることがあってもいいですか? という意思確認なのか。消え入るように繊細なのですが、歌唱の語尾が下がっているのでどちらかといえば前者の意味かもしれません。

覚えてるかな 逢った日の 空と山の色 柿の実色した水曜日 初めて君を見た

『柿の実色した水曜日』より、作詞:山木康世

「初めて君を見た記憶:柿の実色した水曜日」を回顧しているのだと思います。別れた日からふた月程度経過したところがこの楽曲の主人公のいる時間軸だと思いますが、柿の実色した水曜日に初めて君を認知し:逢い、それからどれくらいして深い仲になったのか。その深い仲はどれくらい続いたのか。そしていつ別れたのか。前後関係やその期間の様相はわからない部分が多く残ります。

いつか君も 大人になって 結婚する日 来るだろうな 冬と夏に 葉書を一枚 暇があったら 返事ください いつものくせの右下がり 君の文字が見たいから

『柿の実色した水曜日』より、作詞:山木康世

街で偶然逢うこともどちらかといえば歓迎する姿勢であるし、電話もかけてきてくれて構わないと思っている。そして、別れてまだふた月だと察せられるのですが、もう君が大人になって結婚する日を想像し、その時におのれが望むことを陳述しています……これは……

未練タラタラじゃないですか……

主人公の、君に寄せる関心は別れてふた月のいまも全然潰えていません。君から自分への音信を歓迎する想いでいます。普通に好きじゃん、まだ……

などと門外漢がデリカシーのないことを主人公本人に言ったりしてはいけません。本人たちだけにわかる、感情のすれ違いの機微、うつろい・経過のディティールがあるのです。

柿の実は秋を想像させるモチーフです。柿の実の色も、秋の深さによっていろいろあると思います。彩度の高い熟したあざやかな色なのか。あるいは、まだまだかじっても糖度のかけらもなく不快なだけの青い柿の色なのか。

「いつか君も大人になって結婚する日……」などと歌っていますし、楽曲のむすびの歌詞は“初めて恋をした”です。とても若い主人公の物語だといえます。

初めての恋すなわち、その恋がその人の恋に関する経験のほとんどすべてなわけです。だから、その恋をまるで人生のすべてみたく想うわけです。

この楽曲が描く「柿の実色」は、若すぎて、とても食べ頃とはいえない青い未熟な柿の色だと私は思います。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ふきのとう (フォークグループ) 柿の実色した水曜日/青空 人生・春・横断

ふきのとう ソニーミュージックサイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>柿の実色した水曜日

『柿の実色した水曜日』を収録したアルバム『人生・春・横断』(1979)