寝顔を見せて ソウル・フラワー・ユニオン 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:中川敬。ソウル・フラワー・ユニオンのシングル『寝顔を見せて』(2007)に収録。英題を“LET ME SEE YOUR SLEEPING FACE”としています。

ソウル・フラワー・ユニオン 寝顔を見せてを聴く

しっとりとした感動が押し寄せる美曲です。

土の声を足の裏から吸収して揮発させたらこんな音楽になるでしょうか。中川さんの朗々とした歌唱には万感が宿ります。命の輪廻の養分が全部そのまんま入っているような気がするのです。それを時に人は「民謡」と呼ぶかもしません。そうした魂、表現の本質の部分と、音楽の編成やサウンドの様式、表面の質感(テクスチャ)との融合を評価する声を寄せられがちなのがソウル・フラワー・ユニオンではないかと思います。その評価が世にあるとしたら、私もうなずくところです。でも、様式と表現の本質(思想・感情)の融合うんぬん以前に、直接的に私にはたらきかける彼らの音楽の「近さ」。「親(ちか)しい」という綴り方の方が適切かもしれません。そう、親身なのです。まるで親類のような音楽を奏でるのが、ソウル・フラワー・ユニオンなのです。親戚関係から放たれる音。縁があるのです。それは直接の血のつながりでなくとも、土のつながりなのです。それは間接的な血の繋がりとそう違いないでしょう。

足し算の、全部入りの音楽スタイルを思わせます。

左側にはアンサンブルの中心になるアコースティックギターの定位が寄せられています。中川敬さんが弾き語るギターパートがこれでしょう。歌唱とこのアコースティックギターだけを丸裸にしても成立するのがこの歌の強みです。

フィドル。トレモロする複弦楽器はマンドリン等を思わせる音色ですがちょっと違う気もします。実際の楽器はなんでしょう。アイリッシュ・ブズーキとかなのか。笛のような音色も聴こえます。ティン・ホイッスルでも入っているのか。アコーディオンのようなリード系も聴こえます。にぎやかな親類の輪を感じる編成を、確かな質量のサウンドのドラムとベースが堅牢で温かな船に余裕を持って乗せ航海に出る……頼もしいインフラが色とりどりの活動を載せて星を渡ります。

きれいなまだらの羽根を閉じて

天使の寝顔の君が眠る

『寝顔を見せて』より、作詞:中川敬

Wikipediaによれば、ソウル・フラワー・ユニオンのメンバーの伊丹英子さんの娘に着想を得て書かれた歌だといいます。具体的には“クレヨンなどで汚れた幼児の掌”だとWikipediaに述べられています。「まだらの羽根」はクジャクを私に想起させますが、複数の配色のクレヨンで汚れた、ところどころ色が混じって濁ったりはっきりとした色が残ったりしている幼児の手や指がそうした極彩色の鳥の一部のようにも見えるというのは私の腑に落ちる喩えです。

クレヨンでのお絵かきを一段落し、手をきれいに洗ってお昼寝をする様子を「きれいなまだらの羽根を閉じて 天使の寝顔の君が眠る」と喩えたのだとしたら、それは言葉の幅の持たせ方、含蓄のお手本のよう。素敵なラインです。

夏に呼ばれたって うまく踊るよ

冬に呼ばれたって うまく歌うよ

『寝顔を見せて』より、作詞:中川敬

私を惹いたのはこのラインの視野の広さです。特定の季節に絞って特化することもまた歌づくりの定石ですが、複数の季節を渡って時間の幅を描く俯瞰によって、個別の人間の特定の瞬間を遠く離れ、集団やその活動の時間的な蓄積、その荘厳さを描くことに挑むことができるのです。

足の裏から命の積層が蓄えた養分を吸い上げる力強さと、たくましい翼で天高く舞う幻の鳥のような自由さの両方を思わせます。「天使の寝顔の君」は局所的なモチーフでもありますが、連綿と人間の命の託しあいの中で繰り返されてきた「土と空の使い」の表情でもあるでしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>寝顔を見せて

参考歌詞サイト J-Lyric>寝顔を見せて

ソウル・フラワー・ユニオン公式サイトへのリンク SOUL FLOWER UNION – breast official site > 寝顔を見せて

表題曲を収録したソウル・フラワー・ユニオンのシングル『寝顔を見せて』(2007)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『寝顔を見せて(ソウル・フラワー・ユニオンの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)