The Fool on the Hill The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Magical Mystery Tour』(1967)に収録。
The Beatles The Fool on the Hill (Remastered 2009)を聴く
ラビリンスな美曲。惑わせ、魅了します。
ポフーっという甘い音色の笛が印象的です。ポルタメントするニュアンスがあるので何の楽器かなと思いましたがリコーダーのようです。日本の学校の音楽教育でもなじみの楽器ですね。
さらに曲中で合いの手をいれるのはフルート。外部ミュージシャンが吹く演奏です。リコーダーと同属といっていい種類の楽器ですが、リコーダー特有のポフっという音の立ち上がりと違って、ふしゅ!と息がエッジに当たるフルートの音は似て非なるものです。
ピアノの弾き語りがサウンドの要になる楽曲だと思います。ピアノは右寄りの定位でしょうか。歌詞の”world spinning ‘round”のあたりで5度音〜7度音を半音進行的に経過させるピアノのフレーズがさりげないですが、この楽曲特有の道化っぽさ、孤独感、寂寥を雄弁に物語る重要なパーツだと感じます。メージャーの和音から、フワっとマイナー調に切り替わったかと思えばそのブロックの尻でまたメジャーにしれっと戻る……そしてくだんのリコーダーやフルートのアンサンブルが丘から望む来光のような希望を描きます。孤独で、誰もシェアする人が隣にいないたったひとつの光かもしれません。
右のほうに、オーストラリアの先住民族のアボリジニが奏でるディジュリドゥにも音色が似たヘンな楽器がいます。口琴の類ともビヨンビヨンとした音色が似ますが音程があって、はっきりとベース音を五度の間隔の音程で演出していきます。
またバス・ハープというのもはいっているそうで低いハーモニカですか、ジョージの演奏するものだそう。右寄りの定位にいます。ハーモニカも口のなかの空間の形のつくりかたで雄弁に音色を変え、ときにビヨンビヨンした音も出せる特有の楽器です。この曲においては脇役だとしてもジョージの表現力の奥深さに魅入ります。
コーラスで(歌詞がフールオンザヒル……となるところ)基本、リードボーカルがダブリングになりますが、最後のコーラスだけシングルトラックのままです。寂しいです。愚か者がひとりという描写でしょうか。フェイド・アウトがかかって未来は鑑賞者の中の想像に委ねられてしまいます。希望の笛が鳴っている。愚か者自身が自分の未来を握っていて、誰も邪魔できないのです。
青沼詩郎
参考歌詞サイト JOYSOUND>THE FOOL ON THE HILL
『The Fool on the Hill』を収録したThe Beatlesのアルバム『Magical Mystery Tour』(1967)
参考書
ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)