いちょう並木のセレナーデ 小沢健二 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:小沢健二。小沢健二のアルバム『LIFE』(1994)に収録。
小沢健二 いちょう並木のセレナーデ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:小沢健二。小沢健二のアルバム『LIFE』(1994)に収録。
小沢健二 いちょう並木のセレナーデを聴く
The 246 Audienceとクレジットされた歓声の実態が詳細不明ですが、スタジオ録音のようです。原由子さんの同名曲へのオマージュだとか。本物のライブ録音のようなあたたかく歓迎されるムードが伝わってきます。原さんの同名曲を聴くと、雰囲気がそっくりなのです、観客の声の感じが。絶妙なオマージュですね。
アコースティックギターをちゃきちゃきとストロークし、低音位をよく動かしてメロディアスな
コード進行です。そこにのるリードボーカルの旋律自体もメロディアスですが、どこかやさしげ。
エレキギターが寄り添います。左寄りの定位。リードを取るエレキギターも歌詞のないところであらわれます。このソロのギターは小沢さんによるものだそう。
ハーモニカのソロが哀愁いっぱい。テンホールズでなく、堅牢なボディから来るふくよかな響き。これはクロマティックハーモニカだと思います(音程的にもテンホールズだとベンドを使用しないと出ない音程を演奏していますが音色がベンドのそれでない)。どなたが演奏しているのか、もしや小沢さん本人かと思いましたが違いました。ハーモニカレジェンドの八木のぶおさんの演奏。先日吉祥寺 ROCK JOINT GBで開催された“十穴祭”(by モリダイラ楽器、2024年11月10日)というイベントでルーパーを使った圧倒的な八木さんのソロパフォーマンスを観たばかりです。さまざまな音域のハーモニカと、さまざまな民族楽器じみた笛のようなものや打楽器の類を多重に重ねて革新的でフィジカルで魂が爆裂せんばかりのサウンドを築いていました。
……と話が八木のぶおさんに脱線しましたが戻します。
ポパッポ……と、ハネたリズムをなすオルガンの類の音色のキーボード。こういうパターンをレゲエの音楽で聴いたことがある気がします。
女声のハーモニーが聴こえるのは真城めぐみさん。アンニュイで甘い響きで広がりをあたえます。
いちょうの季節は空気がひりひりと沈下していく寒さを思わせます。冬にむかっていく晩秋なのかな。晴海埠頭の固有名詞も出てきます。東京だとしても東エリア、都市を思わせます。
せつなくて、胸のなかにあったあたたかい記憶をふりかえるような曲想。そんな季節に繰り返し聴きたくなります。
歌詞 黄色く熟した一葉の邂逅
もし君がそばに居た 眠れない日々がまた来るのなら?
弾ける心のブルース 一人ずっと考えてる
シー・セッド “ア・ア・ア アイム レディー・フォー・ザ・ブルー”
『いちょう並木のセレナーデ』より、作詞:小沢健二
気持ちが再燃し、よりが戻る“if”を想像しているのでしょうか。そのとき、心は嬉しさに“弾ける”のか? でもブルースって、悲哀の象徴だと思うのです。
悲哀には嬉しさも孤独もいっしょくたに含まれていると思います。私は、生活は悲哀であると思っているくらいです。ずっと考え続けるのにうってつけ、おあつらえ向きのテーマです。人生は悲哀である。いかにそれに備える・対峙するか。どう悲哀に対する答えを出すか、応えの行動を起こすかがその人の生きた価値だとさえ思うほどです。
晴海埠頭を船が出てゆくと 君はずっと眺めていたよ
そして過ぎて行く日々を ふみしめて僕らはゆく
『いちょう並木のセレナーデ』より、作詞:小沢健二
先述し触れましたが、実在の地名が登場し、主人公らの生活圏、行動圏があらわになるようです。東京の東エリア。都心も近いし、海にも近い……どころか臨している。そこを背景に主人公らのドラマが紡がれているのです。あなたが晴海埠頭付近を生活圏にする人であればそれだけ親近感を得られるかもしれません。私は多摩地域の出身者なので、「おしゃれな舞台のドラマだな」などと思ってしまいます。
ふみしていく日々の記憶や想いは、いちょうの落葉でしょうか。かさかさと音を、靴の下で立てる。やがてからからに乾いて、風に飛ばされて、どこかへ散ってしまいます。記憶のかけらを落とした樹木は何十年かはそこにあり続けます。毎年、記憶や想い出が黄色く鮮やかに色づき私にその存在をアピールするみたいです。季節の景色:風物詩とともに人の想いがあります。
やがて僕らが過ごした時間や 呼びかわしあった名前など
いつか遠くへ飛び去る 星屑の中のランデブー
『いちょう並木のセレナーデ』より、作詞:小沢健二
いちょうの枝先から外れて落ちた葉のひとつひとつと星屑が重なります。あの黄色い葉の一つひとつが私でありあなたでありこの曲の僕や君でもあるのでしょう。それらが、隣り合ったり、重なり合ったりする奇跡よ。散ってしまうのも風に散らされてはぐれてどこかへ消えてしまうのも儚いですが必然です。たとえば人生の何十年かを一緒に寄り添える奇跡など、相当に希少な巡り合わせだと思います。
青沼詩郎
Ozawa Kenji 小沢健二 ひふみよ Official Siteへのリンク
『いちょう並木のセレナーデ』を収録した小沢健二のアルバム『LIFE』(1994)