木の葉が宙に描く軌道よ。
木の葉のスケッチ 大滝詠一 曲の名義、発表の概要
作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一。大滝詠一のアルバム『EACH TIME』(1984)に収録。
大滝詠一 木の葉のスケッチ(アルバム『EACH TIME』収録)を聴く
言葉が醸す一瞬の出来事と長期にわたる人間のドラマ・背景、魔法のような音楽の意匠のかけあわせ、演奏・サウンドの幻想。屈指のジャパニーズポップスの鑑です。世界に誇るべき音楽だと思います。
ふわふわとロングタイムの残響が漂います。かすみがかった視界。都会の直線的な風景にうつろなまなざしをかぶせるようなサウンド。どうしたらこれほどの調和と強調と神秘が得られるのでしょうか。
ナインスのとびだした和音。“Winnie the Poo, Winnie the Poo”……という別の楽曲のモチーフが聴こえてきます。100エーカーの森……くまのプーさんのメインテーマを思い出します。ディズニー音楽の片鱗は大滝さんの魔法にかかっていると(彼の曲を聴いていると)しばしば視界をよぎります。『木の葉のスケッチ』を収録したアルバム『EACH TIME』に収録された『魔法の瞳』を聴いていると『星に願いを』のオマージュが聴こえてきもします。このアルバム制作時の大滝さんの関心事として、これらディズニー音楽があったのでしょうか、あるいは関心事うんぬん以前に、そもそもこのアルバムのコンセプトや企画意図にそうした娯楽音楽の文脈が重要な位置にあるのでしょうか。
刻むともないドラムは重心のアクセント。ベースのサウンドがカドがとれていてマイルドで広がりがあります。ズゥン、と……フレットレスベースのような独特のズモっと感じる音色です。ドラムがチキチキとハイハットめいたものを目立たせない代わりなのか、チキっとシェーカーのようなものが小さくつぶやき、カラカラっとカスタネットが笑います。
中間部ではハープが悶絶のグリッサンド。ベーシックリズムのビート感を止めます。時間停止。呼吸が、鼓動がとまった演出みたいに感じます。“時が刻む深い淵を埋めつくせる言葉は無いんだね”(作詞:松本隆)。その空間を、沈黙が埋めます。二人のまなざしはぶつかっているのか。あるいはただ同じ空中に注がれるのみなのか。
Fメージャー調ではじまって、この時が止まったような中間部分でEメージャー調に行ったかと思えばまた戻って、最終コーラス付近では半音上がってF#メージャーに転調。
“ぼんやりみとれていたよ”や“「食事はどう」って聞いた……”あたりでは3/4拍子をはさんだかと思えば、最初の“ラッシュのホームで君と…”のところでは変拍子していません。トリッキー。和音もムチャクチャにリスナーの私を振り回してきます。この曲の主人公らのあいだの波乱万丈を音楽で表現しているのでしょうか。言葉(具体的な歌詞)の外にも、人格が、ストーリーが高精細に描かれています。見事というほかにあるか。私は言葉が尽きて宙をみつめてしまいます。
印象的な木管楽器はクラリネットか。通常の管でこんなにも低い音って出るのでしょうか。バスクラか何かなのか。枯れ落ちる木の葉の舞う渇いた哀愁と、諦観を包含した慈愛深い気品ある演奏と音色が楽曲の聴き心地をリードします。
青沼詩郎
『木の葉のスケッチ』を収録した大滝詠一のアルバム『EACH TIME』(1984)
『木の葉のスケッチ』を収録した大滝詠一のアルバム『EACH TIME 20th Annniversary Edition』(オリジナル発売年:1984)
『木の葉のスケッチ』を収録した大滝詠一のアルバム『EACH TIME 40th Anniversary Edition』(オリジナル発売年:1984)。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『木の葉のスケッチ(大滝詠一の曲)朝活1時間耳コピ1発録りアコギ弾き語りスケッチ』)