白い恋人たち フランシス・レイ 曲の名義、発表の概要
作曲:フランシス・レイ(Francis Lai)。原題『Treize jours en France』。同名の映画(1968年、フランス、クロード・ルルーシュ監督による冬季オリンピックグルノーブル大会の記録映画)主題歌。日本語詞:永田文夫。原語詞の作詞:ピエール・バルー(Pierre Barouh)。
白い恋人たち 由紀さおりの日本語演奏を聴く
みずみずしい歌唱が白い原野に軌跡を引くよう。歌の声も編曲も素敵です。
右にビブラフォンがとろけます。カドの落ちた、ふとんにくるんだみたいな優しいトーンのギターも右にいるでしょうか。赤ちゃんをゆするように優しい絶妙なハネ具合が曲のグルーヴのキモです。
左側にパサパサとブラシのスネア。枯葉の衣擦れかよ。キックの音も赤ちゃんの心臓の鼓動みたいにぽつっと短く愛らしいサウンドです。ぽつんとした赤ちゃんの心臓を抱き込み、有象無象から護るようにボーン、ボーンとベースが淡白なリズムで質量を描いていきます。深い音色は懐の深さ。
ストリングスの動く音色が私の視線をかき回すように絢爛ですが一瞬で勝負を決めるように精確です。
ウァーっと男声のバックグラウンドボーカルも立ち上がってきます。由紀さおりさんの、憐憫を深海に沈めたポーカーフェースみたいな歌唱に対して男声が感情を掻き立てようとアプローチするみたい。でもリードボーカルの心はまっすぐにみえます。あるいは私のしらないところで枯葉が衣擦れするみたいに震えているのか。
距離のある奥のほうからしっとりと、しかし強くはっきりとした輪郭で飛んで来るのはクラリネットの高音でしょうか。主人公が深海に沈めた心の叫びのようにモチーフを植樹していきます。私のなかにフランスの街路の幻想が立ち上がります。
さりげないですがオルガンが視界の隙間をうめます。行き交う待ち人の動線なのか。私に目もくれないで過ぎてくれるのが、ありがたいのか無情なのか。
ビブラフォンが深い心の滲みを映したかとおもえば、後半付近ではビブラフォンがいたあたりの定位にグロッケンが顔を出します。ピチピチと幼く耳につくきらびやかさは子供の声のようでもあります。愛情、庇護の対象です。
青沼詩郎
『白い恋人たち』を収録した『男のこころ ~ 由紀さおり フランシス・レイを歌う』(1971)