まえがき
ビートルズが現役活動中で世界にもたらすたいへんな旋風が日本にも波及していたであろう時代において、ほかにも人気があったグループの筆頭にはモンキーズもあるのじゃないかと思います。私の母がファンだったと言っていました。
洋楽のシングルというのは曲によって、特定の国でだけシングルになっていたり、あるいはB面の収録曲が違っていたりということが多いようです。日本独自なのか他の国でも同内容のシングルの発売があったのかわかりませんが、『モンキーズのテーマ』のシングルのB面が『I Wanna Be Free』という曲だったよう。
I Wanna Be Free 自由になりたい The Monkees 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Tommy Boyce、Bobby Hart。The Monkeesのシングル、アルバム『The Monkees』(1966)に収録。日本盤のシングル『モンキーズのテーマ』(1967)のB面に収録。
The Monkees I Wanna Be Free 自由になりたいを聴く
歳月とともにかすれて読めなくなっていくインクのようにはかない歌唱です。甘く、やさしい発声でソフトに撫でるように歌っていきます。同時代にモンキーズのファンだった日本の人(特に、たとえば、私の母がそうだったような若い世代の女性……)にもきっと響いたのではないでしょうか。
左にぽろぽろと、とつとつと悲しみをこぼすみたいなアコギのアルペジオ。カポをつけて高めのフレットで弾いた軽やかさが、歌唱の独特のさびしさを強調します。左に定位していますが真ん中か右に向かって残響が広がるような印象の音像です。
右の方からストリングスがうるわしい情感を添えます。補佐的な領分をわきまえた編曲で、奇異な感じでも独創的な感じでもないですがそれこそが好印象です。チェロパート、ヴァイオリンパートなど、まっすぐに引っ張る線のなかに楽器の質感が豊かに込められています。和声の響き重視で動きの多い音符では決してなく、緩慢なリズムですが耳を惹きつけるサウンド面での良さがあります。
真ん中あたりに、チャランと非常に甲高い和声のアクセントが入ります。チェンバロなどなのか、あるいはエレキギターなのか。ピィンと耳を通って頭の中を突き抜けるような鋭い音色です。これ以上やりすぎると耳が痛いぎりぎりのラインですね。しかしこれがあることで、やわらかく甘いタッチの歌唱にみずみずしく落ち着きのある情感を添えるストリングスに背筋が通ります。
おおげさな曲では決してないです。宙に目線をやっての一瞬の嘆きをキャッチします。音楽ってだいたいそんなものでは。
シンプルな語彙中心に紡がれた曲ですが、歌詞の“Like the warm September wind”のラインが情景の輪郭をくっきりさせる寡黙なヒントになっていて、いぶし銀。気の利いたソングライティングです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>トミー・ボイス&ボビー・ハート この曲のソングライティングを担ったソングライターチームでモンキーズへの提供がほかにもあるよう。
The Monkees ワーナーミュージックサイトへのリンク
『I Wanna Be Free』を収録したThe Monkeesのアルバム『The Monkees』(1966)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I Wanna Be Free 自由になりたい(The Monkeesの曲)ギター弾き語り』)