まえがき 吉祥寺の地下円盤天国

最近、吉祥寺へ行きました(この記事の執筆時:2025年5月)。

かつて吉祥寺にはタワーレコードがありました。ヨドバシカメラの上階でした。それがなくなって久しい、という状態でしたがそれも過去のものとなり……そう、復活したのです、タワーレコード吉祥寺店。

このたびのタワレコ吉祥寺店は吉祥寺パルコの地下フロアに居を構えています。ちょっと待て、吉祥寺パルコの地下フロアといえばディスクユニオンがあるだろう、そちらはどうなったんだ……と思われるかもしれませんがご心配なく、リフレッシュして同じ場所でよりいっそう活発に営業なさっています。

つまり吉祥寺パルコの地下1階は黄色い店と黒い店の円盤天国になってしまったのです、地下だというのにここは天上かよ。フィジカルが売れないご時世なんてどこ吹く風ぞ、買う人は買うのです。

かつての脅威的なCD時代とか、(あるいは生の現場・当時を知りませんが)レコード時代にそうだったかもしれないように、大衆歌が誰にとっても共通の購買対象であり興味関心の対象だったという時代からはいくぶん違う様相になった(需要が分散して多様化した?)というだけで、フィジカルの音楽を愛好する人は一定数いるのです。フィジカルだからこその音楽との出逢いも体験も、確実にあります。私はそれを面白がっています。

そのタワーレコード吉祥寺店で、シュガー・ベイブのメンバー、村松邦男さんのベストアルバムを見つけました。複数の棚へのアクセスを確保するメイン通路、みたいな目立つところの試聴機に展開されていたのです。再発盤かな。詩郎(筆者、私です)ホイホイですね。買いました。

このセレクションアルバムに『Do You Believe in Magic』が収録されています。村松さんの実演による、The Lovin’ Spoonfulのカバーですね。オリジナルを改めて聴きましょう。

Do You Believe in Magic The Lovin’ Spoonful 曲の名義、発表の概要

作詞 ・作曲:John Sebastian。The Lovin’ Spoonfulのシングル、アルバム『Do You Believe in Magic』(1965)に収録。

The Lovin’ Spoonful Do You Believe in Magic(アルバム『Do You Believe in Magic』収録)を聴く

爽やかです。主題が良い。魔法を信じるかい? 信じるから生きていられるのです。あらゆる人の共通の命題では。村松さんもカバーする曲として選ぶわけだ。

ダブルトラックのボーカルの中庸なポジション、安定した響き。完全音程のハーモニーのボーカルが右から入ってきます。オーオー……。

カチャカチャした印象のリズムトラックの一因はタンバリンでしょう。ドラムスはスパンとさばけた音色がさわやか。対してベースはグモっとした包み込むようなサウンドです。輪郭がくっきりというよりは、質量感、厚みをもたせる感じのサウンド。

クランチのリズムギターを地盤に、右のほうからオブリガードのエレキギターがこんこんとそそぎます。きらびやかなサウンドがさわやかです。

このシャッフルビートがすごいよ。私もこの歌のコピーに挑戦しましたが難しいのなんの。語数で埋め尽くされた約2分間。シャッフルビートって、1拍2分割系よりも要は3分割すると分割と分割のあいだのタイムが短くなるわけです。それで軽快なテンポなら英語ネイティブじゃない私にはハードルがぐんと上がるし、この楽曲の歌詞における、文章のまたがり方みたいなのが自由に前後している緩急が、なおのこと私にはむつかしい。繰り返しになりますが語数も非常に多く感じます。村松さんはこれを甘美にさわやかにカバーします。

村松邦男 Do You Believe in Magic(『Do You Believe In Magic?:Anthology 1975-1986 (2025 EDITION) 』UHQ-CD収録)を聴く

デシデシと轟くドラムトラック。フロアタムなのか、右側に開いた定位でアクセントが鳴ります。グモーン、ズモーンと伸びとコシのあるベースがビヨンビヨンと伸縮しビートを転がします。

シャワシャワとアコギのトラックの鳴りがワイドで華やか。左の定位にオルガン、描線に幅が、質感に愛嬌があり存在感があります。

村松さんのボーカルトラックはダブルなのか、エフェクトで生成したショートディレイみたいな効果なのか。オケもボーカルも含めて、全体的にエコーが轟く音響感です。エコーチャンバー(空間に向かって収録済みの音源をスピーカーから放ち、その部屋の鳴り:残響そのものをマイクで収録して残響効果を得る手法)なのかな。デシデシと轟く感じは70年代末期〜80年代っぽいサウンドですが、ぶっとびの質感はとてもアナログ的なエナジーを感じます。

ところどころで和声やベースの進行にヒネリを入れている感じです。ボーカルは端正。ちゅるちゅるとなめらかなエレキギターがヨダレものです。低い音域のギターソロがセクシー。

このアナログっぽいエナジー感ってひょっとするとUHQ-CDの特徴なのかな。UHQ-CDは原盤(マスター)の特徴をより如実に伝える仕様だそうなので、マスター自体がアナログテープなどであたたかみのある音であれば、それが今までのCDの規格よりもさらにダイレクトに味わえるということでしょうか。つまり村松さんの元のマスター音源に込められたエナジー感、その音質の方向性が、よりねじ曲がり(歪曲)少なくリスナーに届くということなはず。アナログマスター時代の音源の性格をそのまま味わえるCDの規格が実現したということなのでしょう。

CDブックレットに記載された長門芳郎さんのライナーノーツに、

“マスタリングに関しても、それぞれ、ソースの違うオリジナル・アナログ・マスターを取り寄せ、本人立ち合いの下、たっぷりと時間をかけて行ない、2004年の今、聴いても満足のできる素晴らしく、いい音になった”(『Do You Believe In Magic?:Anthology 1975-1986 (2025 EDITION) 』CDブックレットより引用。※太字扱いは筆者による

とあります。やはりオリジナルはアナログマスターなのです。

これを2025年にリイシューした作品が、タワーレコード吉祥寺店の棚と試聴機で展開されて、私の元に届いたのですね。チョー感慨深いです。音楽は時代をつなぐ!

青沼詩郎

参考Wikipedia>Do You Believe in Magic (song)

参考Wikipedia>村松邦男

参考歌詞サイト JOYSOUND>Do You Believe in Magic

ラヴィン・スプーンフル ソニーミュージックサイトへのリンク

『Do You Believe in Magic』を収録したThe Lovin’ Spoonfulのアルバム『Do You Believe in Magic』(1965)

『Do You Believe in Magic』を収録した村松邦男のベストアルバム『Do You Believe In Magic:Anthology 1975-1986 [2025 EDITION]』(2004年、リマスタリングUHQ-CD:2025年)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Do You Believe in Magic(The Lovin’ Spoonfulの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)