I Saw the Light Todd Rundgren 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Todd Rundgren。Todd Rundgrenのシングル、アルバム『Something/Anything?』(1972)に収録。
Todd Rundgren I Saw the Lightを聴く
くぐもった感情。感傷。天気でいったら曇り空でしょうか。独特のくすんだ光彩感があるのはヴァースのⅡmとⅤをひたすら繰り返す着地しない音楽上の語彙のせい。あるいはやっと着地したと思ってもⅠM7。長七の和音でどこか目線を宙に浮かせてしまうのです。永遠に成就することのない恋を労ってやっているような、そんな斜めの軌跡を感じる。おしゃれだなと思います。
ピアノの4拍目裏にひっかけるリズムと和声のプレイが、各トラックをひっぺがしていったときに最後に歌と一緒に残る幹でしょう。
ドラムスのタムが右に振ってあって異常な存在感を放ちます。余韻が長く、乾いた衝突音があって絶大なアクセントを曲にもたらします。反対にライドシンバルが振ってあるなどドラムトラックだけでも空間を巨大にしています。このドラムセット、端から端まで一体何メートルあるんだ?15メートルくらいあるかもよ。
ベースプレイは端正で、歪んだエレキギターの音と仲良しに聴こえます。ベース自体の音色はマイルドに聴こえますがあるいはそれ自体が歪んだ音色をしている?
カバサなのかマラカスなのか微妙ですが、ちき、しき、……と歯ごたえのあるパーカスが8ビートを強調します。マラカスのシングルストロークよりは往復する<オルタネイトストロークする>ニュアンスを感じる気もするのですがなんの楽器か。リズムの分割を受け渡しあうみたいにタンバリンも現れます。ちょっと独特な音色のタンバリンに個性があります。
チーンと随所を彩るベルの音色は自転車のベルみたいな感じもしますがこれもどんな楽器なのでしょう。トライアングルにも似ますがどうなのかな。
ハーモニーのボーカルもドラムに似て左右に開いています。すごく可憐な声色です。女声かと思ったっよ。なんならキャロル・キングが客演しているかと思ったよ。なんと各楽器パートも声もトッド・ラングレンのひとり多重録音だそうです。
複数の人間が音を合わせるからこそアレンジに未知の可能性の膨らみが出るのがバンドの魅力ですが、一人が隅まで構築するから漂う審美もあります。その極みですね。また一人であっても収録しながら試行するなかでたまたま見出すさまざまな偶然な幸運もままあるわけです。あるいは頭の中で鳴っているが実際にやってみると思い通りの音色にならないということもあります。自分の手持ち機材の個性の問題なのか、収録環境の問題なのか……大衆の商業音楽を聴いてイメージを抱き、それを自宅録音で再現を試みても思い描いた通りの音色が得られないことなどしょっちゅう、1万回やったら9000回はそんな感じです。だからこそ別のことを試し、全然想像と違う優れた(と自分では思える)ものができることもまた1万回あれば3000回くらいはあるかな。……一人多重録音になると私自身がそのスタイルなので勝手に熱くなってしまいます。(失礼しました)
トッドはどれくらい狙い済ましてこのサウンドに至ったんでしょうかね。私ならピアノかギターなどの弾き語りで完結する骨子を作ってそれに質量を加える形で多重録音をほどこすことがほとんどです。ある程度あの楽器とこの楽器は入れようと事前に思い描きつつ、実際に録れた音を聴いてやめどきを決めるなど、着地点の精密な座標までは楽曲の弾き語りを考案した時点では決めていないことがほとんどです。多重録音はそれが楽しいです。自作なんだけど、自分でも思わぬところまで導かれる神秘。それはバンドや他者との共作であっても同じ真理だとも思います。音楽のマジカルな一面でしょう。
光をみるのですが、その光を追って歩いていくとどこまでも景色が変わっていく。自分の持ち物も、同行の仲間も入れ替わったりずっと近くにいる者や道具があったりもする。胸熱です。
沿道の景観に価値がある、とは音楽をやっていて私がよく思うこと。
青沼詩郎
参考歌詞サイト JOYSOUND>I Saw the Light
『I Saw the Light』を収録したアルバム『Something/Anything?』(1972)
村松邦男によるカバーの『I Saw the Light』を収録したアルバム『Do You Believe In Magic?:Anthology 1975-1986 (2025 EDITION)』(2004年、リマスタリングUHQ-CD:2025年)。このアルバムが『I Saw the Light』に注目するきっかけを私にくれました。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I Saw the Light(Todd Rundgrenの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)