天気の歌多い

6月といえば雨季。長い雨、頻繁な雨にわずらわしい気持ちを感じることもままあるでしょう。またそれゆえに人の間にドラマを見出しやすくもあります。私に傘を貸してくれたあなた一人、濡れながら走り去って行っただとか。一本しかない傘に二人で入って、普段は得られない距離の近さにドキドキするとか。

最近、Mr.Childrenの『雨のち晴れ』を聴きました。それをきっかけに、晴れとか雨とかくもりだとか、天候に関わる単語を音楽のサブスクサービスの検索窓に入力するだけでも色んな楽曲が検索ワードとの部分一致で表示されます。

6月の日本、私の住む東京も天気が変わりやすい。6月の天気の起伏ある表情は、天候に関わりのある単語をモチーフにした楽曲にいろいろ触れるきっかけを私にくれるのです。

検索で初めて触れる歌手名とタイトルをみつけました。アイドルっぽいジャケ写なので歌手本人が作詞作曲していなさそうと推察し、すかさず楽曲の作者名義をチェックするにシンガーソングライターの尾崎亜美さんが提供者です。聴きましょう。

曇り、のち晴れ 志村香 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:尾崎亜美。編曲:新川博。志村香のシングル、アルバム『FLAVOR』(1985)。

志村香 曇り、のち晴れ(『志村香 ベスト』収録)を聴く

甘くくすぐったい歌声。しかしダブルトラックなどで輪郭をごまかすようなことはしません。メロディラインのピッチへのアプローチに歌手の個性、人格、思想、哲学、感情、性癖、質感がやどります。AIやボカロが歌ったら全然違うものになるでしょう。少女らしいあやうさ。不安定さ。揺らぎ。若さ。青さ。歌にはすべてが現れます。美醜はあるが正解は鑑賞者が見出すもの。作り手は鑑賞者が引き出す情景や感想が豊かで美しいものと感性を信じ送り出すのみなのです。

シンセのサウンドがぴちょぴちょとうるおいを与えます。ミドルテンポの曲中、16分割のシンセのフレーズが、雨粒に濡れた市中をきらきらと彩る、太陽光の乱反射みたいです。

太く頼れる質感・安定感あるベース、キックドラム。デシっととどろくスネア。

竿物の影がおもにベースギターくらいで、エレキギターの印象がありません。編曲者は新川博さん、キーボード奏者や編曲者として活躍なさった人。なんとお母さまが詩人の新川和江さんとのこと。

ピアノが間奏で印象的に描線。こだまと残響をまとった存在感ある艶めき。シンセキーボードのプレイにストリングスの音色をレイヤーしたみたいにも聴こえますが私の幻覚か。シンセ含むピアノのサウンドで地面から上の情景を描き切っているところも、なんだか私に少女漫画の表現手法を思わせます。緻密で繊細な描き込み、やわらかい輪郭のアタリ。光彩・色彩の表現。

曇りや晴れは登場人物の心理の比喩です。

ずっと晴れていてもメリハリを欠きます。ヒトの心情のように天気も揺らぐ。揺らぎの振れ幅に心の動きもついてくるのです。

あなたの過去の恋の話など聞く。知りたい気もするし怖い気もする。話してくれることは嬉しくもある。話せると思ってくれるのは信頼のしるしですし、己の経歴を明かすことは、話をした相手と今後も長く良い関係を築き認め合っていきたい意思のいあらわれでもあるからです。

尾崎亜美によるセルフカバー『曇りのち晴れ』を聴く

声だけで構築します。独特の軽さがあります。ふわっと傘も風に舞ってしまいそうな質量感。志村さんバージョンにふんだんに込められたバックグラウンドボーカルは尾崎さんのものだと私は思いました。

長く伸ばしたバックグラウンドボーカル、からのワ!っとダイナミクスでメリハリを出し、カウンターメロディが折り重なってきて、さまざまな母音子音を歌いわけ、情感豊か。声の表現のポテンシャルを思います。真っ向勝負、正真正銘のアカペラです。ブラボー。

青沼詩郎

参考歌詞サイト プチリリ>曇り、のち晴れ

参考Wikipedia>志村香

尾崎亜美 公式サイトへのリンク

『曇り、のち晴れ』を収録した志村香のアルバム『FLAVOR』(1985)

『曇り、のち晴れ』を収録した『志村香 ベスト』(2003)

尾崎亜美による『曇り、のち晴れ』を収録した尾崎亜美のアルバム『POINTS-2』(1986)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『曇り、のち晴れ(志村香の曲)ギター弾き語り』)