しなやかに歌って 山口百恵 曲の名義、発表の概要
作詞: 阿木燿子、作曲:宇崎竜童。山口百恵のシングル、アルバム『春告鳥』(1980)に収録。
山口百恵 しなやかに歌って ー80年代に向ってー(アルバム『春告鳥』収録)を聴く(編曲:川口真)
銀河鉄道999(ゴダイゴ)かと思う、胸がときめ駆け出すようなイントロ。
グバグバとワイルドなトーンのベースと、キックとスネアのリズムがキビキビとタイトなハバネラのリズムを演じます。スネアと一緒に右の方の定位でタムが鳴る。ベースとキック・スネアがタイトなので、タムやウワモノが鳴る空間、余白が心地よいんです。
右のはじっこにトライアングルが鳴ったり、あるいはちくちくと軽い質量の何かのパーカッションが鳴ったり。左のはじにはボンゴがパカポコと機嫌よく呪文を唱えます。ハープのグリッサンドが羽を落とし飛び去る鳩の群れのよう。シンセサイザーのチミチミした独特の音色が時代を思わせます。
局面によって熱量の幅を演じ分ける百恵さんの歌唱が堂々としてお見事です。
音数がかなり多いし音色も多様。入れ替わり立ち替わり音景が展開し、情報が流れては戻って来ます。この質量を統率できるのは山口百恵さんの歌唱だから。彼女のためにあるような曲だと思います。
山口百恵 しなやかに歌って(アルバム『コンプリート百恵回帰』収録)を聴く(編曲:萩田光雄)
みずみずしいです。絢爛優美。それでいて、風通しが良い。品性が通り抜ける空間が尊重されていてとても好きなバージョンです。余裕があるんですよ。みちみちひしめいていない。リビングの一番おおきなテーブルについて、機を待つ余裕があるんです。
イントロのお琴の音に潤沢な残響をほどこした演出。何が始まるのか。和のニオイに媚びた感じもありません。
ハバネラのリズムをストリングスのピツィカートでも一体になって提示します。モチーフや音形の扱いにメリハリがあって輪郭を感じさせるのは、こうした音楽的語彙の提示のために複数のパート間で協調して携わり、創作物の方向性を明朗に示しているからでしょう。とても好きな編曲です。
ピアノの2拍3連のリズムが蓮の葉のように浮かびます。風のささやきのようにマリンバがうなる。右のはじっこのほうでカラランとカスタネットが笑います。
サビではタンバリンが高らかに歌います。絶妙な音量感です。轟く空間がある、前でも奥でもない。あなたと私のほどよい距離感。はっきりと認知できる輝きのエッジ。
百恵さんの主題「しなやかに歌って」を表現する歌唱の機微が、編曲と一体になってみずみずしく流れこんできます。すべてが一つの方向性のために存在している。演奏、編曲、録音・ミックス・マスター、そして当然ながら作詞・作曲すべての協調の高みです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>しなやかに歌って、春告鳥、コンプリート百恵回帰
川口真さん編曲の『しなやかに歌って』を収録した山口百恵のアルバム『春告鳥』(1980)
萩田光雄編曲版『しなやかに歌って』を収録した『コンプリート百恵回帰』(2005)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『しなやかに歌って(山口百恵の曲)ギター弾き語り』)