まえがき
はずんだダウンビートの嬉々とした曲調で魅せる逸脱を描く歌詞。極端すぎるウィットをフォローしきれるか、リスナーの懐の深さ、あるいはある種の鈍感さすら試されている気がします。
Maxwell’s Silver Hammer The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Abbey Road』(1969)に収録。
The Beatles Maxwell’s Silver Hammerを聴く
シンセサイザーが入っていますね。モーグという名器だと聞きます。ビートルズにもその時代相応の「最先端」が入ってきたなというのを感じます、初期の、バンドメンバーで1発録音しているような時代の音源と比べるととても遠く尊いものです。
ノンビリとしたというのか、友和を感じる明るい曲調なのですが曲の中で事件が起きています。シルヴァー・ハンマーがカンカンと甲高い音を立てていますが、お父さんが日曜日にDIYをやっているのではないのです。登場人物が人の頭を銀の槌でとらえ、死に至らしめています。曲の中でher(1), her(2), hisと三人の頭が打撃され3人が死に至っています。
ポールの歌唱はソフトです。2コーラス目の途中では含み笑いすら。明るい曲調を柔和に表現します。シングルトラックのヴァースのボーカル、ダブルになるコーラスのボーカルでエネルギーにも起伏があり音楽的です。
自分とかあなたとかを主語にせず、架空の固有名詞……Maxwellを主語に物語る。距離があるんです。絵空事とはこのこと。
外国のアニメとかにしばしば、ブラックユーモアとでもいうのか、残酷な描写をデフォルメを効かせまくった絵柄で描くものがしばしばある気がします。簡単に人体がばらばらになっちゃうなど、暴力的な描写を不似合いな子供漫画じみた絵柄で見せるといったアニメ。いえ、暴力描写が精細でリアルだったらそれこそ目も当てられない。コミカルで軽く扱うからこそ見るに耐える気もします。
このMaxwell’s Silver Hammerも、おぞましい恐怖映画のような音楽だったらどうでしょう。ビートルズ作品じゃなくなるし、アルバム:Abbey Roadにも収録できません。こんなのどかな持ち味だからしれっと商品棚に置けるわけです。でもよく成分表示をみてみなよ。暴力描写が含まれているでしょ? ゥヒヒッ。といった感じ(どんな)。
右にドラムがデシっとミュートの効いた、それでいて質量のみっちりした音で入っています。左にピアノ。リズムと和声のホネです。エレキギターのサウンドが鋭くリズムのエッジを成しますが耳ざわりはマイルド。漂うようなシンセサイザーが平静な狂気の象徴に思えて絶妙、傑作です。サイドボーカル、バックグラウンドボーカルの飾りが気が効いている。彼を釈放して!と叫ぶローズ・アンド・ヴァレリーを表現するときのサイドボーカルの音質なんかも傑作。
ディズニープラスで配信され話題をかっさらった映画、ゲット・バックなどみるに、マル・エヴァンスさんという体の大きなメガネの男性がカンカンと槌で音を出しセッションに加わっている様子があったと思いますが、実際にアルバムになった音源のなかでの槌の演奏音はリンゴのものだそうです。あのマル・エヴァンスさんの映像はリハーサル・テイクか何かだったのですね。
青沼詩郎
参考Wikipedia>マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー
参考歌詞サイト KKBOX>Maxwell’s Silver Hammer
『Maxwell’s Silver Hammer』を収録したThe Beatlesのアルバム『Abbey Road』(1969)
参考書
ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)