まえがき

実際にLordRoadとCD帯に誤記した問題による回収自体が日本盤であったといいます。深遠で恒久普遍なテーマは「道」でも「主」でも解釈の幅を許しうる味わいです。

My Sweet Lord George Harrison 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:George Harrison。George Harrisonのシングル、アルバム『All Things Must Pass』(1970)に収録。ジョージとフィル・スペクターの共同プロデュース。

George Harrison My Sweet Lord(アルバム『All Things Must Pass』収録、2014 Remaster)を聴く

信じるものがそれぞれにあって良いと思います。信じる行為は脆弱にも思えます。実態のないものですから。しかし音楽も実態がありません。では実態がないものは存在しないのか? そんなわけはありません。

実態がないという表現がヘンだったと訂正しましょう。音楽であっても、信じる行為や思念であっても、何かがそうなって存在しているのは確かなのです。匂いは目に見えなくても存在しているのと(大雑把にいえば)一緒です。におい分子みたいなものが目に見えなくてもあると思います。それくらい小さい何かの配列かによって、音楽も感情も信じる心も確かに存在しているのです。その何かしら微分なものの配列に意味を見出せる、価値を秘めた何か。情報です。

アコギのサウンドがイントロから分厚い。右にパワー、ボディの鳴りの迫力あるアコギ。左にももちろんアコギ。あるいは中央奥のほうにもしゃらしゃらとアコギがいるように感じるのはボーカルの弾き歌いのマイクカブリなのか、あるいはただでさえ3本ほどのアコギトラックがもちいられているのか。イントロ付近はほぼギターと歌だけのミニマムな編成であるはずなのに、すでにウォール・オブ・サウンドの分厚く壮麗なサウンドの特徴が出ているのが、フィル・スペクターが携わっているが故だと私をニンマリさせます。

左右を包むようにバックグラウンドボーカルが出てくる。バックグラウンドというにはあまりに重要なので不適切な呼称かもしれず、サイドボーカルというのか、あるいはリードの呼びかけ(コール)に応えるレスポンスのボーカル群というのか。あるいはリードボーカルのほうが神、主人に応えるレスポンスなのかもしれませんし、それは重ね合わせでもあるでしょう。

テシっとアクセントするドラムのサウンド、ベースはキャラクターのカドは丸く、この音楽の輪の質感を見出すことなく加わってきます。ストリングスやピアノもいつのまにか質量に加担しているし、ホゥン……と背中を温めるサウンドはオルガンなのかストリングスか何か別のトラックがそう感じさせる音を立てているのか、あるいは別の楽器パートもいるのか。

主よ、あなたに接せるまでの道は遠く長い……かと思えば、そう願えばすぐそれは叶う!ような、深遠さと親しさを同時に描く歌詞。

愛しきわがLord、と中央で主人公が歌いながら、呼応するボーカル群が神々の多様な名前を列挙し唱えつづけるエンディング。こんなに神様って世界中にいろいろいるんですね。だから、それぞれでいいわけですよ。しかも、最終的には、それぞれの違った名前を冠する神や主人として権化していても、この世の次元を飛び越えたところではどの神も一緒だし、わたしやあなたやジョージ・ハリスンだってみんなひとつの運命共同体であるとさえ思えてくるのがMy Sweet Lordの名曲たる理由です。

ⅡmとⅤ。それからⅠとⅥm。帰結感のない単純なコードを部分的に繰り返しながらも、EからF#への転調を途中にはさんで、それとなく音楽的に空気のいれかえをおこなってもいます。でもすごく自然で、転調していることなんかこの曲を初めて聴く数回のうちは私はほとんど意識していませんでした。そういうカドのまるさもこの曲の魅力です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>マイ・スウィート・ロード

参考歌詞サイト JOYSOUND>My Sweet Lord

George Harrison | Official Websiteへのリンク

『My Sweet Lord』を収録したGeorge Harrisonのアルバム『All Things Must Pass』(1970)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】“主”をやおよろずに重ね見る My Sweet Lord(George Harrisonの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)