まえがき
夏の希望、甘い思い出すっぱい思い出苦い思い出を描く大衆音楽は世に数多あるでしょう。この曲は強いていえば苦い思い出なのかどうか。 あそぶには金がいる。金をえるには仕事がいる。仕事をこなすにはじょうぶなからだと信念が要るでしょう。そのいずれかが欠ければ、夏はご哀愁(blues)です。 数多のロック・レジェンドにもカバーされる永遠の夏の嘆きとけんもほろろなオチ。
Summertime Blues Eddie Cochran 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Eddie Cochran・Jerry Capehart。Eddie Cochranのシングル(1958)。アルバム『The Eddie Cochran Memorial Album』(1960)に収録。
Eddie Cochran Summertime Blues(アルバム『12 of His Biggest Hits』(『The Eddie Cochran Memorial Album』)収録)を聴く
投票権のない少年は周りの目や干渉にあいながら自己実現を図ることになります。もちろん投票権がある人(成人)であっても、周囲の人や環境要因の干渉を受けるのは当然のことで、そうした個人ごとの条件と折り合って誰しも生きていくことになるのです。
少年への干渉が大きい存在といえばやっぱり両親であるわけで、彼が住む家であろうとその家の車であろうと保守保全するのは保護者である両親たち。また少年の起こす挙動に対して責任を持つのも未成年であれば保護者が持つことになるので、干渉してしかるべき理由があるのも当然です。
そうした未成年期を経て誰もが大人になるので、この楽曲『サマータイム・ブルース』に描かれる葛藤は誰もが経験し心に備えている共通の青い思い出たりうるのです。
雄叫びを終始保つようなパンチのある歌声はヘッドホンで聴くと、案外奥まった位置から聞こえます。残響があるからでしょうか。スプリング・リバーブが声やいくつかの楽器にかかっているのか、ピチピチプリプリとバネが弾ける感じのサウンドが私の記憶にあるサーフ・ロックの文脈と重なります。しかしこの少年はおそらく車を借りることに成功して海に行くなんてことにも失敗している。それがブルーズなのです。
1拍目のオモテを空けて(休符にして)、3拍目の表拍に向かって「ッ、ジャジャジャジャ! ッ、ジャジャジャジャジャ!」というギターのストラミングの直線的な印象のリフレインが楽曲のアイデンティティです。ギターもベースも、アナログの録音によってテープコンプレッションがかかったような自然な熱量感です。ベースの短2度下からずり上げる「しゃくりあげ」の歌いぶりが雄弁ですが、ギターやドラムの演奏も含めてサウンドには余白が多くて、倍音が上のほうの帯域を多い尽くすような飽和感はありません。これがまた夏の「ご哀愁」フィールに重なって思えます。
スネアドラムのアクセントとチャチャ!というハンドクラップの組み合わせが強烈。楽器やリズムの音色自体はプレーンなのですが、ジャギ!と高域のトガり方が強い全体のサウンドの耳触りいかにも少年期特有のはねっかえり感です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>サマータイム・ブルース (エディ・コクランの曲)、エディ・コクラン
参考歌詞サイト musixmatch>Summertime Blues
『Summertime Blues』を収録したアルバム『The Eddie Cochran Memorial Album』(1960)