まえがき

サビが後半に偏った構成で、まるで夏休みの後半に取れ高が集中するみたくエモーションが押し寄せます。

サマータイム ブルース 渡辺美里 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:渡辺美里。編曲:奈良部匠平。渡辺美里のシングル、アルバム『tokyo』(1990)に収録。

渡辺美里 サマータイム ブルース(アルバム『tokyo』収録)を聴く

このはつらつとした歌声にかなうものがあるでしょうか。単一の描線を中心にしたボーカルです。リバーブの深みとやわらかくやさしいタイムの長さが優美。ふわふわと空間に漂うゆったり感があるうえで、もやもやと残るわけでもなくくっきりとしたリードボーカルの輪郭を決して邪魔しもしません。大きなホールやスタジアムやなんかに長く滞留するフィールが夏の幅感を演出します。あんなこともあった、こんなこともあった。そしてこれから無限にこれから何かが起きるわくわくと躍動を牽引するリードボーカルとその演出が美麗です。ほとんど単一のトラックで魅せるリードボーカルですが、サビの「サマータイムブルース」をリフレインするところではうっすらダブルトラックになっているでしょうか。エンディングは「Oh, Oh! Oh, Oh, Oh!」とシンガロングパターン。これライブで観客とステージ一体になるところを経験してみたいものです、最高だろうな。

ドラムのかつっとした的確なタイム感、かつふくよかなエアー感が絶妙で、やわらかくずぅんと深いベースが帯同します。ピッチの高いタムが攻めた定位にいて、音像が明瞭なのがうまくアクセントとしてはなやぎます。

空間系のかかったエレキギターが寄り添い、要所でアコギのちゃきっとしたきらめきも囲みますが自己主張はあくまでやわらかく和があるギター群です。間奏はサックスソロ!山本拓夫さんによるもの。鋭く伸び、直線とカーブの両方を感じさせつつ艶めき、轟きます。サザンのアルバム『Young Love』収録の諸作品でも活躍されている方です。

ストリングスがドラマティック。サックスソロと入れかわりに、ボーカルメロのトレースに入るところなど胸の扉がノックされる想いです。

Aメロを全量で繰り返す、かとおもったら「フリスビー 遠くにシュルル 飛んでゆく」など、リフレインの量がイレギュラーだったりとこれはあくまで些細な点ですが構成にフックがきいています。「夏の海のうねりのように」のところでは同主調の短調にいったような、不穏なマイナーの響きで光陰の「陰」、影のほうを強く打ち出し、そして爽快なサビに行くかと思えば後半までおあずけ。ためにためて、サビをうしろのほうで解き放っていきます。夏休み、もごもごして、だらだらして、このまま終わってたまるか! とエネルギーが爆発する八月後半……みたいに思えるカタルシスがありますね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>サマータイム ブルース/Boys kiss Girls

参考歌詞サイト 歌ネット>サマータイム ブルース

渡辺美里 公式サイトへのリンク

『サマータイム ブルース』を収録した渡辺美里のアルバム『tokyo』(1990)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】スロースタートなエモーション サマータイム ブルース(渡辺美里の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)