まえがき
当時のグループサウンズには職業作家からの提供曲をレパートリーや収録曲の中心にするバンドが多かったと思います。自分たちでソングライティングした作品だけでオリジナルアルバムを出すグループサウンズバンドは稀有な存在だったという点も、スパイダースの特筆すべき長所のひとつかもしれません。ガレージロックなども思わせる激しいサウンドに、能天気に思えるほどシンプルでコミカルささえも感じる端的な歌詞の落差が魅力であるようにも思えます。シンプルなコードを中心にしていますがちょっと意外性もあり、また曲調がほろっと和風な風情を帯びるところ(マイナーコード、あるいは近親調系の調合の和音をふと放り込むところなど)がただのガレージロック一辺倒でもない彼ららしい素晴らしさです。
ヘイ・ボーイ ザ・スパイダース 曲の名義、発表の概要
作詞:ささきひろと、作曲:かまやつひろし。ザ・スパイダースのシングル、アルバム『ザ・スパイダース アルバム No.1』(1966)に収録。
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スパイダースはサブスクにないです(この記事の執筆時:2025年8月時点)。CDやレコードなどの円盤を買い求めるなどしてみてください。
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元気よし、移勢よし。少年はハツラツとビチビチしていなけりゃ。
左右にバックリと別れたボーカルトラックが印象的です。センターにバチバチと火花を放っているかのようなリズムギター。なるほど、こういう定位構造もありですね。左右それぞれで俺がリードボーカルだ!といわんばかりのトラックが鳴っていればこれでもバランスがとれます。
バコンスコンとパワーと抜けの良さと圧のあるドラムが気持ちよい。爽快です。
ビートルズの『ヒッピー・ヒッピー・シェイク』など思い出させる竿物のリズムのリフレイン。サウンドはトロッグスの『ルイ・ルイ』の歪み、ガレージ感を思い出します。
激しいギターの演奏に続くオルガンソロがタイトで緻密。音形のリフレインと動きの塩梅が良く、またソロの出口に向かってかなり低い音域まで使うので迫力にも満ちます。
ボーカルトラックはリードのメロディのユニゾンだけでなくもちろんハーモニーのパートもいますが動きのシンクロ感が良い。メンバー内で負けてたまるか感もあるのですが調和もあるのです。バンドに一体感がある。スパイダース、良いバンドです。ライブで聴いてみたかった。当時に行きたいです。
1、4、5の和音を繰り返しているような愚直ぶりなのですが、Ⅱm→Ⅵmなど“これからどの娘と逢うのやら”のところ、急にあえてはつらつとしたエネルギーを反転させて暗澹とさせるところがメリハリがあって巧いですし独特の和風な陰影を感じます。Aキーですが“かどのむこうに消えちゃった”のあたりなどはC→D→C……とフワっとした流れを挟んで“ヘイヘイヘイヘイヘイヘイ・ボーイ”とコーラスの流れに戻るところもうまい。たった1分台後半のサイズのなかに緩急がつまっています。そしてある種の愚直さの良いところも失うことなくフックに富む聴き味、インパクトのあるバンドのサウンド。ウワァーっとシャウトがあまりにもうるせー!と思うほどのレパートリーにもしばしば出会うスパイダースサウンドですがこの楽曲『ヘイ・ボーイ』くらいのシャウトの塩梅はちょうどいいです。彼らのいいところが一番いい塩梅で出ている。コンパクトなサイズの曲には無駄を詰め込むスキマなんてないんです。アソビがある、風通しが良いといった魅力の方向性の追求も良いですが、『ヘイ・ボーイ』はコマーシャル的。要素をぎゅぎゅっとして一気に受け手にぶつけてひきつけます。
闇にまぎれて、誰とどこへ行くんでしょうかね。想像するのもそれはそれで無粋。勝手にしやがれ、少年よ。
青沼詩郎
Monsieur Kamayatsu Forever | ムッシュかまやつWEB記念館へのリンク
ザ・スパイダースのアルバム『ザ・スパイダース アルバム No.1』(1966)
『へイ・ボーイ』を収録した『ザ・スパイダース コンプリート・シングルズ』(1999)。発表順に歴代シングルのジャケットをレイアウトした歌詞カードなどが魅力。