まえがき

なめらかに舞い、ぴたっとすいつく雪のひとひらのような順次進行のボーカルメロディと、ひたすらにリフレインする主題の「迷路」の単語がかえあわさって人生のありのままの姿を提示します。その様相・姿に美しさを見出すのが鑑賞者の勝手であり、その放り出し方がカッコイイのです。夏の甲子園だとか球場を思わせるのにウィンターソング、クリスマス感もある冬のモチーフとオルガンの音色も魅惑です。コーラスラインのあとを追いかけるピアノの音色の愛らしさよ。

迷路 THE HIGH-LOWS 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:甲本ヒロト。THE HIGH-LOWSのアルバム『HOTEL TIKI-POTO』(2001)に収録。THE HIGH-LOWSのシングル『いかすぜOK』(2002)のカップリング曲。

THE HIGH-LOWS 迷路(アルバム『HOTEL TIKI-POTO』CD収録)を聴く

サブスクにないのでiTunes等のダウンロード販売や円盤でお楽しみください。

銀世界に描かれる主人公の足並みが人生の軌跡の比喩。

イントロの「らーららーら」……で歌う、歌詞のないボーカルの主旋律が遠い感じの音響になっています。まるでゲレンデに轟くスピーカーで聴くような趣です。

ボーカルのフレーズ尻の音形をエレキギターとオルガンのユニゾンで強烈にレスポンス、合いの手します。ぼふっと視界を覆わんばかりのベースの質量感はきめの細かくみっちりつまった雪の束のようです。

ハイハットの幅の効いたニュアンス。クローズドなのだけれどパワー感に押されてちょっとハーフオープンに寄り切られてしまわんばかり。横綱フィールです。

オルガンのキャラクターが雄弁なんですよ。間奏の入りはきわめて低いところに張り付くようなポジションかつオクターブ上に倍音で分身の術が居るみたいな感じで、バッテリーの挙動をピッタリと観察してスチールを試みる出塁者みたいです。このオルガンソロが折り返しになると一気にピヨピヨと輝く瞳にまつ毛のボリュームある毛束みたいな華やかなサウンドになります。コヨコヨピチョピチョとロータリースピーカーで水飛沫を散らすような、気分は校庭のスプリンクラーです。

銀世界の歌だと思うんですが、猛烈に野球っぽさがあるんです。青春の記憶と汗が混じるような。私の記憶の反芻も、現実の季節をはみ出して、ウロウロ迷路している。まっしぐらにすっきりとフレームされるだけの人生なんて不自然です。

ふだんは己のウロウロは見えない。時空という一方通行の魔法にマスクされて、俺はなんておなじところばかりをうろうろしているんだろうという己の愚さえ多い尽くしてしまうのに、雪が辺りを覆ったときばかりは、自分のウロウロが形跡になって目に見えるのです。その模様に、己の運動量の物量に感動するのか。あるいは俺はなんてバカで不細工な模様ばかり作ることに躍起になっているんだろうと呆れるのか。それはその時になってみないとわからないけれど、とにかく「迷路」とリフレインしまくることで激励をもらった気になるくらいは私の勝手です。ささくれてめくれあがりそうな甲本さんのボーカル、ブヒー、ズオーとスピーカーが音を上げそうなエレキギター、ピタっと輪郭のまとまった、それでいてボリューミーなバンドの質感にグっと来ますね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>HOTEL TIKI-POTO

参考歌詞サイト 歌ネット>迷路

↑THE HIGH-LOWS↓ 公式サイトへのリンク

『迷路』を収録したTHE HIGH-LOWSのアルバム『HOTEL TIKI-POTO』(2001)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】ウロウロを刻む銀世界 迷路(THE HIGH-LOWSの曲)ギター弾き語り』)